--!-->
8. CAF invoice [ 19/124 ]
わからない。
「死ねばいい」
声。
「許せないんだよ、お前みたいなやつ」
声。
「クズが嫌いか、面白いか? バカにしてんだろ、優等生さんは」
うん、面白いよ。だって。
俺がバカにしたくらいでなにも出来ないなんて、ほーんと、中身が無い。意思も無い。
他人の目ばっかり気にして気持ち悪。
だから他人のせい。
毎日毎日、理由は他人のせい。
食い潰した時間も、お金も。親か? それとも、先生?
アハハハハハ!
その上、まだ、無いものを探してさぁ。
どうなるんだよ。
それさえ、無い誰かは。我慢出来ないのはこっちだ。
頑張ったり、挫けたり、それでも一応折り合いを付けてる人だっているじゃないか。
出来ないのは、出来ないせいだろ?
「なんで、死ななきゃいけないの」
出来ないことを、周りの力でやるだけやって。
その上『俺には合わない』って言って放棄。
さらに、俺のせいなのか。
わからない。
こんなのが、正しいって?
これを、納得してろって?
――我慢出来ない。
「出来ないやつもいるんだよ! 苦労しないんだよ、出来るなら!」
声が。
する。
苦労しない人生なんかどこにもないのに。そんな夢みたいなこと言ってさ。でも。
「それ、俺を痛め付ける理由? ねぇ……」
痛め付けたやつも同じ理由なんじゃない。
苦労から逃げて、
ずるい。ずーっとそう。出来なきゃ暴れればいいんだもんね。
納得出来ないなぁ。
出来たら暴れなくていいのに。
苦労もしないのなら、
俺に当たるよりも、真っ当に、すべきことがあるのに。
犯罪者になったら、余計苦労するよ?
人が死ぬ理由って、
なに?
□
「寝込みを襲ったりしないでしょうね?」
声。
振り向くと橋引が居た。ソファーに運んだら、
クッションを握りしめてくたっとしている、色を眺めてただけなのに。
人聞き悪いことを言う。
「お前まだ居たの」
「悪い?」
「悪かないが、一旦着替えとかに戻ったりしないのかな」
「ここで着替えて欲しい?」
「お願いします」
「するか阿呆」
腰に手を当てて、ツンツンしている彼女。
なかなか美人だが、ツインテールはあまり似合ってない。おろせばいいのにと思うが、まあ彼女の好みだから俺が口を出すことではないか。
「私、色ちゃんとお話したいことがあるわけ」
「えっ、なんだ、それは」
驚いた動作で、自然に腕を伸ばしたつもりだが、彼女は、それを器用にはね除ける。
「やめてよ、あんた触れたものからの感情、筒抜けなんだから!」
知ってる。
だからやってんだ。
「私と色ちゃん、組もうかと思ってるの」
「え……あいつ、子どもみたいな顔して、あれはあれで、なかなか、アレだぞ?」
「アレばかりでわからないですが」
「あんまりなめてかかると逆に足元をすくわれるぜ。
あいつの過去見たことあるけど、弱そう、優しそう、言うことを聞きそうに見えるとかの理由からよく、変なのに絡まれたりするんだと」
「あー、あるある」
そして、そういう空気を敏感に感じとるらしい。
「んー」
そのとき、ソファーで寝ぼけていた色が、ばたばたと腕を伸ばして何か掴もうとする。
「どうした」
近くに行くと、ぎゅ、と抱きついて離してもらえなくなった。
「……あのー」
すやすや、寝息をたてているから、寝ては、いるようだが。
「う、ぅ」
「んー? 起こしたか?」
彼は昔、悲惨なストーカーにあったらしい。愛想よくしなくなったのも、そこからだろうと、柳時さんは言っていた。
それを思い出していたのだろうか。
[*prev] [next#]
きろくする