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6.rescue point [ 16/124 ]

「じゃあ、週末に二人で出掛けようか」
と、女の声がした。何やら賑やかだなと思っていたら、玄関先に他人が二人。
藍鶴と……
あれは、橋引だ。


「俺を抜きにして、なにしてんの?」

 まさか真剣に朝食をつくっている間に浮気に走るとは。
近づいて行くと、藍鶴は曖昧な顔で笑った。よくわからん。
橋引は、あ、おはよう!と明るい声ではしゃいでいる。

「おはよう。あのね、色ちゃんがね!」

「……はっしー」

「ごめんってばー」

「なになに。浮気の相談?」

色が、ふいっと目を逸らす。あー、これはこれは。なにか隠していらっしゃるな。

「こっちを、見ろ」

無視される。
「……」

ハイハイわかりました、
と、彼女の方を向くと、やけに真面目な顔をしている。

「ああ、かいちゃん。
無線から、情報が来たの」

なんだよ。

「……急に仕事の話かよ」
がっかりしていたとき、こそっと、耳元でささやかれる。

「あとね、色ちゃんは、痛いとか怖いとか、鈍いところがあるから気をつけてあげて」

「あ、ああ」

「自分が辛いのかどうかたまに自覚出来ていないみたい」

「……ああ。それは俺も、薄々感じていた」

どうしようもなく辛くなったときには。あいつはきっと俺にさえ、頼らない。
しねと言われたら『うん』と言うし、きえろと言われても『わかった』と言ってしまう。
それに何の疑問も持たない。彼にとっては、
それらの言葉は、ただの日常会話。

「あと、はい……」

彼女が手を出してくる。掌にあるのは、引きちぎられた小さなペンダントだった。

ただ黙って、それを握る。目を閉じる。
さざなみが聞こえた。
ああ、海は嫌いだ。

「ざっくりしたことしかわからないが、まず狙うのは海の見える範囲だな。それから……これは、海外か? 英語の文字が浮かんでくる」

それ、から……
頭が痛い。
痛い。
痛い。
痛い。

「こんなん、ばっかかよ」

チッと舌打ちをするが、気は紛れない。

「なにか見えた?」

「念力が必要なのは、何らかの下じきになった、持ち主をつれてくるためか」

橋引が頷く。

「そのペンダントも、引きちぎられてるでしょ。唯一持ってこれた遺品なの」

「なるほどね」

藍鶴が、紙とペンを差し出して来る。
黙って雑な絵を描くと、そいつはそれをじっと見つめて、顎に手を当てた。
関係無いが、こういうしぐさがたまに艶っぽくて、つい、ときめいてしまう。

「そうだな。海がある範囲で、さらにこの形状の石がある場所……」

「恐らくは5940年代辺りから6250年代の山での噴火事件。遠くに時代にあった会社の建物が見えたからな」

俺が言うと、そいつは黙って考える顔をして、少しして、肩に手をのせてきた。

「ん?」

「少し補給させろ」

囁かれて口付けられる。え。
なに、なにこの流れ。

「ちょ、と、色ちゃん」
獣のような、目。
しばらく俺を堪能してから、また無表情に戻る。俺は照れて顔が熱いというのに。

「……どうも。元気になった」

「ソウデスカ」

「そうだな、海が見える範囲というのは、確かか」
「重点的にはな。だが、油断するわけにも行かない。岩のそばに誰かが居た感じがするんだ」

「誰か、ね……他に、わかることは」

橋引が言う。

「例の、あいつらよ」

色が、青ざめる。
俺は、ただ黙っていた。色が、拳をぎゅっと握る
「わかった。できる限り俺もやる」

拳を握って怖い顔をしている、藍鶴色に近づき、そっと掌を握る。

「だから、そんな困った顔すんなって」

「……困った?」

不思議そうだ。
わかっていないらしい。
「それより早く、会社に戻ろう」

きゅるる、と彼の腹の虫が鳴る。恥ずかしくて抱きついてきた色を、なにかを願うように、優しく抱き締める。
大丈夫。俺らは、生きてきた。
これからも。

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きろくする