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テーマ「推しとの恋」
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5.palihgenesis [ 15/125 ]

 なんの話だ?
寝てしまったら、記憶が読みづらいじゃないか。 諦めて、そいつを運ぶ。見た目よりもずっと軽かった。

「ん……」

唸りながらなにやら暴れている手足を握って落ち着かせて、ベッドにのせ、布団をかぶせた。

「ほら。ここで寝ろ」

そいつは、答えない。
離れて欲しくないのか、腕だけを伸ばしてくるので、きゅっと握ってやる。
『なかないで……』

寝言が聞こえる。
泣いてるのはお前もだろう、と思いながらも、しばらくその横顔を見つめ、やがてテレビを振り返った。
砂嵐が映っていた。
放送、終わったのか。


 俺は海を見るのが好きだった。……だった、というのは、つまり、そういうことだ。
海は、ときに見たくないものまで、見えてしまうようで、あまり近づかないようになったのは、ずいぶん前からだ。

 なんだか、やけに昔を思い出してしまう。
海の映像なんか、見たから。いや。それとも。

「なぁ――色」

答えはない。

「していい?」

「……」

寝顔に無理矢理口付ける。少し眉を寄せながらも、応えてくれた。
満足して、彼の横に滑り込み、布団に横たわる。
「おやすみ」









 さざ波が聞こえる。
たぶん気のせいだが。
いつかは、あいつの目の前で死のう。
それが復讐になる日が来るだろうか。

 生きているんだか死んでいるんだかわからない毎日。
傷ついていないのに傷ついていると言われなければならない苦痛。あの頃だって『痛い』と知らなければ、痛みなんか、感じたりしなかった。

 布団から起き上がり、軽く運動してから、ぼんやりと携帯で時間を確認する。まだ朝の4時だ。解瀬は寝ている。
少しだけ嘘を吐いている。大事、と好き、は別だということ。


『すき』が、正直、まだよくわかっていない。
『恋』も、よくわからない。特定の、というほど、他人を信頼した記憶がないのだろう。


いつか消える。消える。消えるのは、俺の頭の中。
裏切られ続けたショックから逃れるためなのか、一定以上の好意がある順に、相手の記憶を喪失するらしい。
らしいというのは、思い出せないからだ。

治せるなら治したいけれど、もう大分、他人を忘れたせいなのか、そもそもの対象になる相手さえ居ないため、不便さえなくなってしまっていた。
だから『無関心』ではない他人との関係は、なんとなく、落ち着かないのだ。まともに覚えているということが、なんだか異様な気さえする。

きっといつか忘れるのに。あいつのことも。
それを無くしたとき、俺は何をなくしたかわからないまま、しばらくぼんやりする日々を過ごす。

何度も覚えようとする、そのくらいしか、今はできない。だから。
正直、全くわからない。
『好き』が、『恋』でなければならない理由も。二つの違いも。
何を見ても、どんな本を読んでも全く理解できなかった。

ただ、そこに相手と自分がいる。それだけの話じゃないのだろうか?

世界には、誰一人居ないかのようで。とてつもなく、寂しい。けれど、失うのも同じ。


彼が、特別な関係に拘る意味もわからない。
特別だとなにか変わるのだろうか。
相手に特別な好意を求める彼と、相手に好意を持つことそれ自体が異例で特別な俺では、性質が違う。
 誰一人信頼出来ずに裏切られ続けてきた結果――好意と、万が一のときのショックから逃れること、二つがセットになっている俺とは。
顔を洗いながら、橋引と待ち合わせる時間を考えた。
 彼女は、いつも早く来て休んでいる。今日もだろう。
かいせが起きないうちに会えるだろうか。
橋引のことも、好きだ。他の連中は大抵嫌いだが、彼と彼女は、信頼できるから。

ピンポンとチャイムが鳴る。出てみると、ツインテールの髪を元気よく揺らす彼女が居た。

「来ちゃったっ!」

「うん。おかえり」

「ちがうよ! おかえり、は家族とかが戻ってきたときの台詞でね、こういうときはいらっしゃい」

「あ、そっか。ごめん」

「もー。本当になにもわからないんだね」

「ああ」

「朝から目の前に美少女、やったね!」

「……やった?」

首を傾げていると、まあいいやと言われる。
難、しい。

「ねぇ」

「ん?」

そうだ。

「俺と組まない?」

「なんで?」

「恋、と、好きの違いを知りたいから」

「あっきれた。かいせは教えてくんないの?」


「今ひとつ、ピンと来ないんだ。どきどきとか、そんなのしか、聞けない。全力疾走したあとも、恋なの?」

「んー……難しいわね。それは。色ちゃん、たまに変な人にモテるでしょう?」

「あー、絡まれてるのかどっちか」

「好きって言われたら、どうしてたの」

「見たらわかるから『知ってる』って」

おお、と、彼女が引いたような反応をする。
「でも、それは正しい返答じゃないんだって。この前、初めて知ったんだよね。嬉しい。
俺、もっといろんなことが知りたいと思った」

「私でいいの?」

「うん」

感情を本当に、知ったとき、目の前に居る相手に対して考えることが変わったりしていたら、なんだか、すごく居づらい。
「かいせが、浮気とか怒るでしょー! 私も彼が好きだけど」

「……でも。まだ、わからないこと、沢山あるし。こっそり、勉強するだけだから」

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