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3.aimed at precision [ 10/124 ]

あぁ、朝が来たのか、と思う。
 会社からは、よくしつこく居場所を探されるし面倒だから携帯は持ちあるかないことにしてる。

 まさか、調査のために入り込んだ彼の家で、彼に好かれるとは思いもしなかった。
完全なる誤算だ……
なのに。
もうひとつ誤算があった。けれど、別に言わないことにしている。
俺は大事なものは、増やしたくない。
いつか、消えてしまうから。

今になれば、身内や友人がそれほど酷いわけではないのだと思う。

ただ、俺が異常だっただけ。だから、きっと、俺が居なければすべて落ち着くところに落ち着いていただろう。

かいせは、傷つくから死にたくなるのだと勘違いしている。
俺は、まともに傷付くことさえうまく行かないのに。

本当は俺が居ることが、『間違い』だから、早いうちに『正さないと』ならないんだと、前から気付いていたことを、改めて実感しているに過ぎない。

 寝癖を掻き回しながら、寝室をうろつく。かいせは居ない。
なんとなく、むっとする。昨日は、奴を無視して床で寝ていたわけだが、少し身体が痛い。
じわ、と涙が浮かんで来た。
苦しい。

 初めて友達に裏切られたのは保育園の頃だろうか。俺が描いた絵を勝手に出されたり、小学生の頃、俺がやっていた係の仕事で、担任に報告したやつが、自分の手柄にした。

いつでもそう。
価値なんか、奪われたら、無いのと一緒。俺の価値は誰かが奪っていく。実力をつける努力以外、なんにも残らなかった。
俺以外じゃ有り得ないっていうものを持つ以外は、なんにも残らない。
だから、俺は自分の体質は嫌いじゃない。
奪えないから。
俺が死ねば、終わり。
あぁ、明快だ。
あまりにも。


『お前、気味が悪いな――消えろよ!』

向けられるその言葉を聞きながら、俺は思う。
俺自身は、俺のものだ。だから。

「なーにしてんの!」

後ろから抱きつかれて、淡々と返す。

「お前の枕に釘を刺してる」

「ぎゃー、何で刺してんですか」

かいせのベッドによじのぼり、羽毛をわさわさと引きずり出していたら、止められた。

「もー、ばかぁ! 色ちゃん、なにしてんだよ」
「愛情表現」

「もー……今日、枕なしかよ」

泣きそうな顔で、枕を眺めるかいせを見ながら、いい気味だと思う。
よくわからない。
憎みたい日と、好きでたまらない日が、交互にやってくるらしい。

「愛情表現、別の方法にしてくれない?」

「……」

黙って唇を奪う。
どきどき、した。

「こんな感じ?」

「そんな感じ」





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