--!-->
3.aimed at precision [ 8/125 ]
あんな言葉だけで、そいつは急に楽しそうに手伝い始めてしまった。
理解が出来ない。
「お前は、俺を誤解してないか」
「そうだな、お前の方が変態だったな」
「えっ」
噛み合わない会話は置いておきつつ、黙々と作業を再開。やはり二人でやる方が早い。
「だめだ、お前のキャラが見えて来ない」
「俺は、かいせのキャラが見えて来たよ」
並べる係と、まとめる係になることにして、俺はまとめる係をする。
きれいに束ねられた書類たちに、ナンバーを付けていき、次に棚に戻すか廃棄するかを検討。
そのとき。
ばさっと書類から一枚が舞った。そこに映っていた客の一人の資料に目を奪われる。
「や、だ……やだあああああああ!!」
騒ぎだした俺を押さえつけながら、かいせがおい、とか、落ち着けと言ってくる。無理、無理だ。
「おい、お前」
「なんで俺だけ生きてなきゃならないの!? 利用されてたのは、俺の方なんだよ、なんで、誰も俺を信じてない、なんで俺は背負わなきゃならないの、なんで、傷付いても死なない、なんで橋に居た俺を、突き落としてくれなかったの、なんでまだ……」
俺は生きてるんだよ。
「怖い、こんな世界も、この会社も、俺自身も、だいっきらい! いやだ! うんざりだ! 今更、失ったものばっかり、戻らないものばっかり! いい加減にしろ、俺はっ――」
叫んでいる俺をなだめようと、かいせが手を伸ばしてくる。うるさい。いらない。
「……俺は」
かいせは微笑んでいた。
「お前が生きているなら、それで、嬉しいと思うよ」
俺は。
何も答えられない。
「お前が生きているから、それで、いい。あのときも、橋の側に居てくれて、俺と、会ってくれて。ありがとう」
やだ。
聞きたく、ない。
甘えてしまうのは、きっと。
何もない証拠だ。
「……泣くなよ、だから」
頭を抱えて、踞る。
足元にある資料に映る少女は、優しくわらっている。戻って来ない。
大事なものは、いつか、なくなる。
「俺は、大事なものなんて、持ちたくない」
涙で、視界がぼやける。塩辛い味がしている。
それはとても懐かしい味。
「失うものなんて、要らない。なくなっちゃうものなんか、要らない!」
呼吸が苦しくなる。
痛い。痛い。痛い。
[*prev] [next#]
きろくする