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3.aimed at precision [ 7/124 ]

椅子にもたれていたそいつはやがて、俺の太ももに座った。

「どう、した」
「裏切られるのってさ、なんか、だめ」
「あぁ。そうだな」
寂しいのか、ぎゅっと抱きついたままで動こうとしない。

「可愛いな」

「……ん」

もしかしたら、泣いているのかもしれない。
顔を見せようとはしなかった。
俺やこいつは。
いったいどこから壊れてしまったのだろう。
 今まではただ、まっとうに、普通に生きていきていたような気がする。窓からの陽光が周囲を照らして、綺麗な黒髪を、少しだけ金色が混じったように見せていて。
それを撫で付けながら、ひどく感傷的になる。

俺だって、平凡に生きてきた。なのに、触れただけで感情が伝わるあの力があったせいだろうか。
 突然、呼ばれた上司に、さわってみなさいと差し出された書類。
そしてそこから伝わったもの――――俺が、驚いた顔をしたからなのだろう。そこからは素早く、気付いたときには、俺はリストラだった。

ふと、我に返るとじっと見つめられていた。
あぁ、かわいすぎる。
ちゅー、と唇を吸うと、そんなつもりでは無かったのかさすがに驚いた顔で硬直している。

「んっ……」

びくびくと震えながらも、しばらくされるがままになって、それから離れた。口から糸が伝う。

「なにするんだ」

「ちゅー」

ぱしんと頭を叩かれた。あまり痛くはないが。
目元を見たら、どうやら泣いてたみたいだ。

「なに、なんか思い出しちゃった?」

「思い出したく、ない」

「そうか。ま、そうだよな」
小さい頃は、よく、カウンセリングを受けさせられた。そのときも、何があったか話しなさいと言われるとどうしても気が進まなかったように思う。
 俺は、かいせにそれを言おうかどうか迷った。けれど、まあ、いいかと思い、素直に口にする。
「少し、妬いたんだ」

「んー?」

彼にしがみつく。
相変わらず、ふざけたやつだ。妬いたっていったら、わからないのか。

「あのとき、りゅーじさんが、訪ねてきただろ。従わないと、ただ雰囲気を壊されただけで終わってしまう気がしたんだ」
「あぁ、あれ、反抗したつもりだったの? 俺はてっきり、俺よりも仕事が大事なのかと思った」
「俺は、何も大事にしたくない」

がーん、と彼は、あからさまなリアクション。
やかましいやつだ。

「手放せないものなんて持ちたくない。お前か俺が、死んだら、苦しく、ない、かも」

「なに、苦しいの?」

聞かれて、無視して書類を束ねるのを再開する。
「前だって。俺は一人で仕事してた。疲れてるから無理させないようにってなるべく抱えた。でも、すごく」

「わかったわかった。俺も、無理してもらいたいとかじゃないし……」

無視して、また書類を束ねる。

「好きだといいながらも、いつも、俺は置いていかれる」

「ごめん」

腰に手が回る。邪魔だ。べたっとひっついてくるそいつを引き剥がさないまま、分類表を確認する。
「お前も自分の仕事しろ……」

あきれた声を出したはずだが、彼は嬉しげだった。いや、働け。

「まだある? 俺がきいてないこと」

「俺を束縛したがるわりにはお前は、誰かと遊びに行った話しかしないわけだが」

「スミマセン」

ぎゅ、と抱きつく。
頭を撫でてくれる。

「怖い、俺は、一人になってしまう、から。二人になったら、また一人になる……」

「うん。それで?」

「怒るのは苦手だ。だから、お前がそうするなら、俺もそうする」

「俺が浮気してたら、お前もそうするって?」

「ああ」

はぁー、とため息をつかれる。意味がわからない。
彼から離れて、ファイルにひとつずつ分類通りの記号を書き込む。
さきほどよりもだいぶん片付いて来たはずだが、目の前の事務机には、まだまだ書類がある。

「お前は冷たいんだか、デレてるんだか、わかりにくいな」

無視して作業をする。
しかしこいつは俺には全体的にわかりにくいわけだが。

「好きだよ」

右耳に囁く。
かいせは、少し、びくっと震えた。

「好きだよ」

もう一度囁く。
彼は、目を閉じて聞いていた。
「好きだよ。だから、寂しくなりたく、ないんだ」

「じゃ、ショートケーキは、口実か」

「4割くらいは、な」

がば、と抱きつかれそうになったのを押し退けていくらかのファイルを棚に戻していく。

「あー、やっぱ可愛いなお前」
「動け、仕事しろ」

「ちゅー、していい」

「動け、仕事しろ」

「ケーキなんか俺が買ってやるのに」

「しかし、食べたい気分は今日だったんだよ」

「じゃああとで、買いに行こう、な?」

優しくそう言われて、少し嬉しくなる。が、そう簡単に優しくする気はない。
「まず動け」

「えー、つれないー」

「お前が頑張ったら、ご褒美に、俺もあげようか」
「えっ?」

「なんて、な」

あははは、と笑うが、まに受けているのか彼は赤くなっている。

「まあ俺は、攻めが良かったんだけど。お前がどーしてもっていうなら。さらに、セーラー服とか、猫耳とか付けてもいいぞ」

目の前のこの大量の書類の山。受けたはいいが、なんか一人じゃ片付く気がしないしな。

「マジで!」

……。
なんでそんな、乗り気になったんだコイツ。

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