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揃って声が上がる。直ちに無言で二人は立ち上がって歩き出す。真紀や秀の教室があるのは四階。そして今いる場所は二階。


 間に合ったと思ったのに遅刻……。


三階へ上がった時には、チャイムは鳴り終わっていた。
とぼとぼと教室に入る。教卓に先生が……いない! やったラッキーと思いながら席へ着いた。


 清水くんは今頃生徒指導室へ行っているのかな。
はぁぁー今日は心臓に良くない日だ。


真紀は秀のことが好きだった。三年生に進級し、クラス替えで離れてしまい、姿を見ることがなくなってしまった。

元々真紀と秀は話したことがなく、唯のクラスメートで真紀の一方的な片想い。
それが今日、とても近い距離でしかも少しだけ話せれた。それだけで嬉しくなり、一人で盛り上がっていた。




私がどんなに恋を求めても
恋は私から退いていく
だから必要以上に求めない

その感情が
自然消滅するのを待っている

私には感情なんていらない


こんな──
感情なんて相手にとっては迷惑なだけだ






  *


「ねむ‥‥」


秀は小さく欠伸をして廊下を歩く。虚ろな目で歩いていたので、ガンと掃除道具箱に当たってしまった。幸い、辺りに人がいなかったので恥ずかしい思いはしなかったのだが……。


「あははっ」


近くを歩いていた女子が笑う。顔を見てみると、今朝会った西沢真紀であった。

知っている人に見られたので恥ずかしくなり、外方向く。それから足早にその場を去ろうとした。


「あ、待って」


呼び止められて足を止める。真紀の手には携帯があった。おおよそ察しがついた。


「メアド教えてもらってもいいかな」

「……いいよ」


秀が微笑んで見せると真紀も微笑んだ。ポケットから自分の携帯を取り出そうとした時、何かが落ちた。


「これは……」


床に落ちた物を拾い上げる。それは薄い桃色を帯びた桜の花弁だった。じっと秀を見詰めて真紀は言う。


「──昨日、いた──?」

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