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桜の花弁が散り、風に舞って桜吹雪になる。西沢真紀はその桜吹雪の中で一人佇んでいた。

桜の木を仰いで花弁を掴もうとしたが、手の平を開くと何も掴めていなかった。


 私は唯見詰めることだけしかできなかった。話そうと思えばいつでも話せたのに。


過去の記憶が蘇り、胸を締め付けた。真紀は胸に手を当ててゆっくりと前へ歩き出す。微かに桜の香りを感じた。

俯いていた顔を上げると、前方に人が立っているのが見えた。
黒の学生服。男だ。
真紀は今までの意味深な行動を見られたと思って、慌ててその場を去った。


 知っている人だったらどうしよう。変な目で見られるかな。ああ、こんなことになるのなら早く帰れば良かった……!


真紀が去っていった後を、学ランを着た清水秀は少し彼女追い、足を止めた。真紀の髪についていた桜の花弁を器用に掴む。


「あれは西沢さん……」


その花弁を指で抓みながら、散り続ける桜を見上げた。秀は目を細めてそれをそっとポケットにしまい込んだ。

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