5/5

次の日、卓斗は海にやってきた。今日も卓斗の方が先だった。海へ着くと砂浜に見慣れないビンが置いてあった。ビンには紙切れが入っていた。

広げて見てみると“ありがとう”と書いてあった。その言葉が全てを語っていた。


栗原はもうここには来ない‥‥‥‥


直感に近かったがそう感じた。それでも彼は彼女がここに来るのを待った。
次の日も…次の日も…。


  *


あれから数ヶ月が経った。紫音は姿を現していない。

やけに今日は冷え込む。雲が分厚い。卓斗はマフラーに首を引っ込めた。


「……神谷君?」


卓斗は後ろを振り返った。そこにはあの少女が経っていた。


「栗原……!」

「前はごめんね、突然いなくなっちゃって。家庭内事情でちょっとだけこの町に住んでいたの」

「ちょっとだけ?」

「うん。ここから遠い所にある家が本当の私の家なの。怖いんだけど、どうしても海が見たくて‥‥だからちょっとだけ」


紫音は透き通った海に近付いた。震えていたあの頃の面影は既になかった。


「でももうあっちには行かない。だって海に触れることが出来た。大丈夫って両親に行ってこの町に引越しして来た。

神谷君のお陰で再び海が大好きになったよ。本当に──ありがとう」


気付けば卓斗は紫音と唇を重ねていた。空から雪が舞い降りてくる。


「俺……ここでずっと待ってたんだからな」

「うん‥‥」


彼女は涙ぐみながら言った。彼は彼女を抱き締める。


「お前に好きって言えば良かったって後悔してたんだぞ。なのに今、のこのこ出てきやがって……」

「うん‥‥」

「紫音。俺はお前が好きだ」

「──私もだよ」


雪の華は静かに舞い降りて透き通るこの蒼い海に溶けていく。












[ 111/131 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]
[mokuji]