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声も震えている。海にトラウマがあるのかと彼は思った。何だか勿体無い気がした。綺麗だと感じているのに触れられないなんて。

彼はズボンと裾をまくり、海に触った。色鮮やかな魚が逃げていく。


「私のお兄ちゃん、津波にさらわれたの」


紫音が膝を抱えたまま静かに口を開いた。卓斗は黙って彼女の言葉を聞き入る。


「昔、波打ち際でお兄ちゃんと一緒に遊んでいたの。そしたら突然大きな波が私達を襲ってきて……。

あっという間にお兄ちゃんがいなくなった。……その時、私は奇跡的に助かった。私が9歳だった頃の話」

「見た目からして‥‥、6・7年前ぐらいか」

「うん。……未だにお兄ちゃんは見付かってないの」


「そうか」


余程怖かったのだろうと思った。そしてもう一度、頑張って海に触れようとしている。


凄いな。俺だったらそんな勇気持てないだろうな……。


卓斗は陸に上がった。濡れた手足は自然乾燥だ。


「だったら俺が、お前をもう一度海に触れさせてやるよ」

「……神谷君だっけ。出来るの?そんなこと」

「分からない──が、ここまで来れたのならあと少しで海に触れられるんじゃないのか?」


「そうだといいな」


紫音は微かに微笑んで立ち上がり、その場を去ろうとした。
卓斗が慌てて声をかける。


「お、おい!何だその言い種は!?」

「また、来るから」


卓斗の方に振り向き彼女は目を細めた。







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