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 嬉しそうな御子柴先生の声にこっちも嬉しくなる、好きな人が嬉しいと嬉しくなるものなんだなぁと思える。
 これも先生で知ったこと、私にとって先生は本当の意味で初恋の人なんだろう。
 中学時代、彼氏はいたけれどなんだか泣くほど好きだとかこんな風に感情が動く事は無かった。
 その彼とは高校が別々になり携帯で連絡は取り合っていたけど段々とメールも電話もなくなり自然消滅した。
「先生の教え方が良いからですよ」
「それなら授業で理解してほしいもんだな」
「私、どうしても余計な事を考えて意味不明な方向に行っちゃうんですよね。
 どうしてこの公式はこうなるんだろうとか、だから理系が苦手になっちゃって」
 顔を挙げて苦笑を浮かべて言うと先生は少しばかり考える表情になる。
 何か変な事を言ったか、気に障る事を言ってしまったかと思うと不安になったけど…。
「あー、けどそういうのって意外と理系向きな考えになるんじゃねぇのかな。
 例えばこの公式はこうだけど、どうしてこうなるんだろう…これを当てはめてみたらとか…。
 なんつうか例えにしては陳腐かもしれんが理系ってーのはパズルみたいなもんだからな、だからそういう些細な疑問が新しい答えや公式を生み出すのに良いっていうか。
 …駄目だ、上手く説明できんで悪い」
 その言葉と共に軽く私の頭を撫でてくれたからか、その不安は薄まった。
 それと同時に先生は可能性を広げるような事を言ってくれてー…それは受験生となった私には遅い事かもしれないけれど(今更理系に進むのは難しいからだ)それでも泣きたいほど嬉しくなったには変わりない。
「御子柴先生」
「ん?」
「…ありがとう、ございます」
 そう言葉にすると「礼を言われる事じゃねぇよ、教師として当たり前だ」と軽く笑う。
 絶対に偉ぶったりしない、そんな言葉に救われる。
 その瞬間思ったのは私は先生に恋をしていなくても先生を好きになっていただろう、一人の人間として。

 この想いを伝えるのはまだ先になるかもしれない。
 教師と恋愛なんて創作の中だけだと、幻想だという友人ばかりだ。
 私のこの想いが思春期特有の勘違いだと誰かに言われたとしてもー、でも私は勘違いだとは思わない。
 今は表に出さなくても、私は私なりに道を選び造ろう、マイノリティ上等。
 学園という箱庭から出ていくその時、御子柴先生じゃなくて御子柴雄二さんに生徒の真柴じゃなくて真柴優として思いの丈を伝える。
 だからそれまでは少し騙しても良いよね、矛盾しているのは承知だけどさ。

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