2/3 今が一度きりっていうなら思い切り過ごしてみたいと思う、周りが右向け右なら左だろうが後ろだろうが斜めの方を見てみたい。 そんな事が出来たら人はもっと自由に生きられるんだろうけど、それが不可なのは分かっている。 それでも可能にしたくて行動をするのは自分の気持ちに嘘を吐きたくないし誤魔化しなんかしたくないから。 「で、真柴はどこが分からないんだ?」 放課後の化学準備室、3年生の化学担当の御子柴恭一先生はペンを片手に問いかける。 2年の頃から理系教科が苦手という立場を利用して先生に近付こうとして早1年、先生も慣れてきたのか説教をするでもなくこうして対応してくれる。 苦手なのは嘘じゃないしバカだと思われても良いから、でも周囲が怪しいと思わないようなペースで先生のいるこの部屋に訪れる。 「今日の授業でここが理解できませんでした」 私は自分のワークを机に置き今日習った部分のページを開き問題を指差した。 準備室にある先生用の机を使っての勉強だから距離はそれなりに近い、向かい合ってだから緊張するけどそれを顔に出さないようにするのにも慣れた。 「おま…今日やったんなら教科書を読めば分かるだろ?」 呆れたような口調で言いながらも「いーか? ここはぁ」なんてペンを片手に丁寧に説明をしてくれる。 テキストを見るフリをしながら先生の節くれだった指を見ながら、ちゃんとそれを聞く。 分からないというのは本当の事であって嘘じゃない、それに先生だってこうやって説明してくれるけど忙しいには忙しい人だ。 だから“分からないから理解しようとしている生徒”の為に教えてくれる気持ちを無駄にしないようにする。 故に先生の指を見ながらも話の内容を理解できるようになった。 「つー訳でこうなるって事だ、分かったか?」 「えーっと…つまりこうでこう…なるんですよね?」 机に出しておいたペンケースからシャーペンを一本取りだして問題に取り組みだす。 視線はそっちに行っているから先生が今どんな表情をしているかは分からない。 それでも良いと思えるのはこの部屋に二人で居られる事と内容がどうであれ互いを意識して居られる事だ。 「お、そうそう。真柴は呑み込みが早いな」 [しおりを挟む] [mokuji] |