6/7


これでよし、と洋介が呟いた頃には既に遅かった。陸のアドレスも削除されてしまった。

きっと、同じ時間を歩むことはないと思っていた人が、目の前にいる。
私とは正反対な人。

つぅ、と一筋の涙が頬を伝う。
私は、どこかで諦めていたんだ。きっと叶わないんだと決めてつけていた。

だからせめて、と。
何かで繋がっていたかった。
それが、後ろめたいことでも。


「え、悪いっ!そんなにコイツのこと好きだったなんて……。本当ごめん。勝手にアド消しちまって‥‥。やっぱり俺は無理だよな」


私の涙を見て、洋介は戸惑う。心から申し訳なさそうな表情をして、私に謝る。即座に私は首を横に振って、洋介を抱きしめた。


「違うよ。‥‥嬉しいの」


出会った時から、こうなることをずっと望んでいたんだ。
それが順番を間違えてしまったとしても。

少しでも、彼と一緒にいる時間が欲しかった。
少しでも、彼の瞳に私が映ってほしかった。

いつの間にか、そんな思いが強くなっていった。

あの時、洋介に出会ってなければ、私は見知らぬ男に抱かれていただろう。毎週違う男と一夜限りの出会い。

そのまま、快楽に溺れていた。

ハジメテが洋介だったからこそ、今の私がいるんだ。


「ねぇ、抱いて。洋介の愛を身体全てで感じたい」


私は洋介を見上げて首の後ろに手を回した。
今、彼の瞳には私だけが映っている。
今、彼は私だけを想っていてくれる。

それだけで、これ以上の幸せはない。
洋介の唇が私の瞼に触れる。その温もりが何より愛しい。


「もちろん。俺から離れられないぐらい、愛してやる」


その言葉に、彼の香りに、私は包まれて溺れて、眠る。
一年前と同じように。けれども、全く違うのは溢れるほどの愛情に、心も満たされた。








「同じ大学に行ってるって思ってる?」


腕枕をしてくれている洋介が、私を抱きしめながら唐突に尋ねた。私は迷わず、うんと頷く。


「まあ、普通はそう思うよな。大学に通っているって。けど、俺は大学に“通勤”してんだよ」


遠回しな言い方に、沈黙の間ができる。漸くたどり着いた答えに、私はゆっくりと洋介を見つめた。


「まさか……講師?」

「そ。俺、学校ではマジメな奴だから」


真面目、という単語がこれほど似合わない人が言ったものだから、思わず笑ってしまった。

[ 13/131 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]
[mokuji]