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そう言って、“飾り”のキスをした。
なのに、今は、どこか甘い。


「男が出来て幸せそうにしている姿を見ているのも、悪くはなかった。体だけの関係から抜け出せたと、思えたなら……」


肩を引き寄せられて、洋介の腕の中に閉じ込められる。こうやって抱きしめられたことは、今まで一度もなかった。

目の前にいるのは、誰?
その優しさに、胸が痛い。


「久礼葉がいなくなってから色んな女と付き合ったけど、無理だった。失って気付いた。俺は久礼葉じゃなきゃダメだって」


至近距離で見詰められる瞳に、くらくら眩暈がした。今の私はどうかしてる。きっと、これは夢なんだ。

洋介から離れようとして、腕の中から出ようと試みるがどうにも出来なかった。それどころか、ますます出られなくなる。


「久礼葉が好きだ。久礼葉の、心が欲しい」


強引に唇を奪う。触れるだけのキスから深い大人なキスになる。
愛してる、という気持ちが受け止められないぐらい感じた。

見詰め合う瞳。
熱い視線に、全て身を委ねてしまいそうだった。


「もう無理だよ。私と洋介は、ただの肉体関係だけしかない。それに私、彼氏できたから……」

「それでも。俺は久礼葉を愛してる。もう、久礼葉しかいらない」


有無を言わせないとでも言うように、強く言い放つ。
私は、先程からのキスで、もう何も考えられなくなってきていた。

洋介とは、キスはしたくなかった。
私の中で、何かが芽生えてしまいそうだったから。

望みのない――恋をしそうだったから。

苦しいぐらいの口付けに、溶けていく。
一度芽生えてしまったものは、簡単には枯れてくれない。

そこで、ケータイが鳴る音が聞こえてきた。洋介はそれに気がついて、唇を離す。はっとして、私は自分のケータイを手に取った。

画面に表示されたのは『陸』。

一気に体が硬直して、すぐに通話のボタンを押せなかった。その様子を見て洋介は誰からかかってきたのか分かったようで、私からケータイを奪った。


「あ、もしもし?」


迷わず通話ボタンを押して、電話に出た。その洋介の予想外の行動に、目を丸くした。彼が何をしようとしているのか、分からなかった。


「あー悪いけど、クリスマス無理だから。久礼葉は俺のものなんで。じゃ」


電話越しに反論の声が聞こえたが、構わずに電話を切った。私は話す言葉が見つからなかった。

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