5/7 そう言って、“飾り”のキスをした。 なのに、今は、どこか甘い。 「男が出来て幸せそうにしている姿を見ているのも、悪くはなかった。体だけの関係から抜け出せたと、思えたなら……」 肩を引き寄せられて、洋介の腕の中に閉じ込められる。こうやって抱きしめられたことは、今まで一度もなかった。 目の前にいるのは、誰? その優しさに、胸が痛い。 「久礼葉がいなくなってから色んな女と付き合ったけど、無理だった。失って気付いた。俺は久礼葉じゃなきゃダメだって」 至近距離で見詰められる瞳に、くらくら眩暈がした。今の私はどうかしてる。きっと、これは夢なんだ。 洋介から離れようとして、腕の中から出ようと試みるがどうにも出来なかった。それどころか、ますます出られなくなる。 「久礼葉が好きだ。久礼葉の、心が欲しい」 強引に唇を奪う。触れるだけのキスから深い大人なキスになる。 愛してる、という気持ちが受け止められないぐらい感じた。 見詰め合う瞳。 熱い視線に、全て身を委ねてしまいそうだった。 「もう無理だよ。私と洋介は、ただの肉体関係だけしかない。それに私、彼氏できたから……」 「それでも。俺は久礼葉を愛してる。もう、久礼葉しかいらない」 有無を言わせないとでも言うように、強く言い放つ。 私は、先程からのキスで、もう何も考えられなくなってきていた。 洋介とは、キスはしたくなかった。 私の中で、何かが芽生えてしまいそうだったから。 望みのない――恋をしそうだったから。 苦しいぐらいの口付けに、溶けていく。 一度芽生えてしまったものは、簡単には枯れてくれない。 そこで、ケータイが鳴る音が聞こえてきた。洋介はそれに気がついて、唇を離す。はっとして、私は自分のケータイを手に取った。 画面に表示されたのは『陸』。 一気に体が硬直して、すぐに通話のボタンを押せなかった。その様子を見て洋介は誰からかかってきたのか分かったようで、私からケータイを奪った。 「あ、もしもし?」 迷わず通話ボタンを押して、電話に出た。その洋介の予想外の行動に、目を丸くした。彼が何をしようとしているのか、分からなかった。 「あー悪いけど、クリスマス無理だから。久礼葉は俺のものなんで。じゃ」 電話越しに反論の声が聞こえたが、構わずに電話を切った。私は話す言葉が見つからなかった。 [しおりを挟む] [mokuji] |