4/7


それからしばらく会話が続いた。
その人は陸と言って、大学生らしい。黒髪で、綺麗めのお兄さんみたいな人だ。

帰る時には、自然な流れで連絡先を交換した。何だか、夢のようだった。

少し前の自分だったら、きっとこんなこと出来ない。頑張って良かった、と思った。


それ以来、陸とは二人きりで遊びに行ったりして、ついに付き合うことになった。それでも、私はどこかでそれが嬉しいと思っていなかった。

陸と出会ってから、洋介と会っていなかった。同じ学校に通っているのは確かなのに、見かけたことはなかった。

連絡するのはいつも、私。
これで良かったんだ。
私も、洋介も。
これで、何も捕われない。


   *


「クリスマスは予定あけておいてね」

「ん、分かった」


ケータイを閉じてベッドに置く。陸とはまだ続いていた。かれこれ、もう一年は経つ。

そして、最後に洋介に会ったのも――

ヴヴヴ、とバイブ音が聞こえてきて、ケータイを取る。電話だったので、急いで出た。


「もしもし?」

「――久礼葉?」


一瞬、沈黙になる。
てっきり陸がまたかけてきたと思っていたので、違う男性の声で思考が止まった。


「玄関前にいるから、開けろよ」


ケータイを握りしめながら、恐る恐る玄関から覗く。
電話の声主は、そこに立っていた。

一年前と、変わらない姿で。

ゆっくりと玄関のドアを開けると、よおと気さくに挨拶をして中へ入ってきた。
私は未だに驚きが隠せない。


「変わんねーな、この部屋」

「……なん、で?」


漸く出た言葉。
明るい茶髪の、耳にピアスをつけた洋介は、一通り部屋を見渡した後、振り返る。


「さあ?」


彼は何でもないように、私のものを物色し始めた。懐かしいなーなんて言いながら。
――そんなことを言う人だっただろうか。

いかにも私には興味なさそうで、抱いたら煙草を吸ってすぐに帰っていった。たまに泊まっていって、特に話をする訳でもなく帰っていく。

それ以上もそれ以下でもない。
ただの、アソビ相手。

ふっと洋介は手を止めて、私に近づいてくる。目の前まで来ると、頭に手を乗せて、それからゆっくり撫でるように私の髪に指を沈ませた。

何、これ。


「最初は求められるだけでいいって思ってたのに。それだけで幸せだと思ってたのに。……男って、貪欲だよな」

[ 11/131 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]
[mokuji]