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「あぁあ……もう、ダメ……っ!」

「ッ、イけよ‥‥!」




こうして情事するのは、一体何度目だろうか。付き合っている訳でもなく、ただの肉体関係である。

先程まで私を抱いていた男は、煙草を吸っていた。私は私で、服を着て身支度を整えていた。

しん、とした空気が流れる。
その中で、彼の煙草を吸う音だけが聞こえてくる。煙の匂いが、こちらまで漂ってきた。


「久礼葉、彼氏いねぇの?」

「‥‥洋介こそ」


突然の言葉に、私は目を丸くした。まさか、洋介がそんなことを聞くとは思わなかったからだ。

洋介は別に、と曖昧な返事をして煙草の火を消すと、頭の後ろで手を組んでベッドに体重を預けた。

外見は、軽い。髪は明るい茶髪で、耳にはピアス。一方、私は、黒髪で薄めのメイクをした地味な女。

そんな正反対な二人が、何故か一緒にいる。それが今でも不思議で仕方ない。

すぐに捨てられるだろうなと思っていたのに、洋介は私を拒まない。
連絡するのはいつも私の方、だけれど。

何人もの女のヒトがいそうなのに、まだ一人も見たことがない。だからといって、彼に尋ねることはしない。

また、彼も私に尋ねることはしないのだ。
体を重ねること以外、何の関係もない。同じ学校に通っている、ということだけ。


「彼氏がいたらこんなこと、してないよ」


そう告げて、私は玄関に向かう。もちろん、洋介は来ない。駅まで送っていく、ということもない。

客観的に見れば、こんな関係を終わらせなければとは思う。けれど、もう戻れなかった。一度快感を知ってしまったら、もう。

初めてだった私も、洋介は上手いと分かった。キスもテクニックも全て、女が悦ぶトコロを知っている。

それなのに、抱かれる度、広がっていくこの空虚感は何なんだろう。
胸にぽっかりと穴が空いたような。

はぁと溜め息をつくと、白い息となって宙に消えた。外は確実に冷えてきた。気付けば、日付は12月だった。


   *


何となく講師の話に耳を傾けていると、ちょんちょんと腕を突かれた。隣に座っていた友人が、ケータイをいじりながら話しかけてきた。


「久礼葉ってさー、最近綺麗になったよねー」

「そんなことないよ」


綺麗なんて言葉、絶対似合わない。
肌の調子は確かに前よりかは良いけれど、これもセックスのお陰なんだろうか。

――そんなの、関係ないことだけれども。

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