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「入りたいんなら、入れば」


素っ気ない言葉だったが、私は礼を言って中へ入った。どうしてか、まだこの場所を離れたくなかった。(もしかしたら、何かを期待しているのかもしれない)(でも、何を?)

中は案外きれいで、ガランとしていた。四畳ぐらいの広さだが、休憩で使うには十分の広さだった。

中に入ったからと言って、特に話す訳でもなく沈黙が続いた。屋根に雨が当たる音だけが響く。先に沈黙を破ったのは、私の方だった。


「何でここにいるの」

「それは、こっちの台詞。あんな所で寝て、誰かに襲われたかったの?」


その口調に、からかいはなかった。含み笑いもなく、ただ無表情だった。不思議な奴だ、と思った。思っていたより、軽い奴ではないかもしれない。


「そうかもね」


そう言って、自嘲した。ほとんど何も知らないに等しい奴に、何を言っているんだろうと思う。男は、感情のこもらない声でふうんと言った。


「名前は」

「久礼葉(くれは)。あんたは?」

「洋介」


お互いにじっと見詰める。他にも聞きたいことがあったが、今日はこれだけで十分な気持ちだった。

何を思ったのか、私は洋介の手を取り、自分の胸に当てた。洋介は少し、驚きを見せた。

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