5/7 「入りたいんなら、入れば」 素っ気ない言葉だったが、私は礼を言って中へ入った。どうしてか、まだこの場所を離れたくなかった。(もしかしたら、何かを期待しているのかもしれない)(でも、何を?) 中は案外きれいで、ガランとしていた。四畳ぐらいの広さだが、休憩で使うには十分の広さだった。 中に入ったからと言って、特に話す訳でもなく沈黙が続いた。屋根に雨が当たる音だけが響く。先に沈黙を破ったのは、私の方だった。 「何でここにいるの」 「それは、こっちの台詞。あんな所で寝て、誰かに襲われたかったの?」 その口調に、からかいはなかった。含み笑いもなく、ただ無表情だった。不思議な奴だ、と思った。思っていたより、軽い奴ではないかもしれない。 「そうかもね」 そう言って、自嘲した。ほとんど何も知らないに等しい奴に、何を言っているんだろうと思う。男は、感情のこもらない声でふうんと言った。 「名前は」 「久礼葉(くれは)。あんたは?」 「洋介」 お互いにじっと見詰める。他にも聞きたいことがあったが、今日はこれだけで十分な気持ちだった。 何を思ったのか、私は洋介の手を取り、自分の胸に当てた。洋介は少し、驚きを見せた。 [しおりを挟む] [mokuji] |