S.9
声がしたと思ったら、庭に三毛猫の小太郎がいた。息が切れているところを見ると、走ってここへ来たようだ。
「あ、お偉いさんがいる!む、アイツもいるじゃねーか!!あの野郎、俺にマタタビなんか使いやがって…!それより凛乃!」
「な、何?」
「人間に戻っちまったのか……?」
ひげを下に下げて、とても悲しそうな表情で言う。その様子に居た堪れない気持ちになり、凛乃は小太郎の目の前まで来てしゃがんだ。
「ごめんね。でも、ありがとう。小太郎くんと散歩、楽しかったよ」
小太郎は一度俯き、再び顔を上げてまっすぐこちらを見つめた。
「俺、また凛乃に逢いにくるから!」
「うん」
凛乃が小太郎の頭を撫でようと手を伸ばしたその時、カロンが制した。
「この三毛猫、凛乃ちゃんとデートしたの?」
「ん?カロンくん??」
「カロン、このマタタビ使いますか?」
「え?ちょっと椿?」
ゴゴゴゴゴと背後に怪しげな効果音が流れていそうな気迫で、二人は小太郎を見下ろしている。さすがの小太郎も、焦っているようだ。フフフと不気味な笑いをしながら、近づいている。
「あ、この粉薬、他の奴にも猫の言葉が理解できる成分も含まれているんだった」
「ぎゃあぁあぁぁぁあぁああ」
他人にはきっと、猫の悲鳴という鳴き声が聞こえてきたに違いない。
The End.
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