S.7
「やあ椿。凛乃ちゃんを見なかったか?」
その言葉に反応して、凛乃はカロンの名を呼んだ。カロンは、椿の腕の中にいる猫に気がつく。
「その黒猫、拾ったのか?」
「ええ。捨てられていたようなので……どうかしました?」
全てを見透かすような綺麗な緑色の瞳で、凛乃を見る。金髪の美貌を持つ青年カロンに見つめられると、猫の姿でもドキドキしてしまう。椿も青い瞳で美しい顔立ちだが、椿の時とは違う緊張が生まれる。
「‥‥気のせいだよな。何でもない」
(カロンくーん!)
気づいてくれると思っていたので、泣きたい気持ちでいっぱいになった。
そこで、急にバンッと勢いよくベランダの戸が開いた。
「よっ!美青年二人組、元気だったか?」
『飛鳥さん!!』
相変わらず短いスカートを穿き、豊満な胸を見せているマロン色の髪の飛鳥が、家の中に上がり込んできた。
玄関からではなく、庭から入ってくるというところが、いかにも飛鳥らしい。凛乃は椿の腕から飛び出して、飛鳥の元へ駆け寄った。
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