S.5


「椿……っ」


猫になっても凛乃だと分かるのね、と感動して涙が出そうになった。


「可哀想に。そんなに鳴いても貴方を捨てた人は帰ってきませんよ」

(勘違いしてるしっ!しかも、話し通じてなーい!)


同情するような目で凛乃を見る椿を見て、がくっと項垂れた。完全に人間になった椿は、猫の言葉が分からないようだった。


「そんな悲しそうな目をしないでください。私が拾ってあげます」


そう言って椿は猫になった凛乃を抱き上げた。これは、前の状況と全くの反対ではないか。

凛乃が椿に連れさらわれそうになると、その様子を見ていた小太郎が叫び出した。


「オイ!てめぇ凛乃をどうするつもりだ!?」


しかし、椿の耳には猫の鳴き声しか聞こえない。


「おやおや。お腹でも空かしているんですか?仕方ないですね、買ってきた魚肉ソーセージでもあげましょう」

「テメーケンカ売ってんのかっ!?」


どうしていいのか分からずオロオロしている中、ブロンドでふわふわしたかわいらしいマリアが歩いてきた。凛乃はマリアを呼んだがマリアにも通じず、代わりに近くにいた椿を発見した。


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