S.2
確認のため顔に触れてみると、フサフサしていた。耳は顔の横ではなく、頭の上にある。頬にはしっかりヒゲも生えている。
「ど、どうしよう!?あっ、そうだ!椿たちみたいに、二本足で歩いてみよう!」
と挑戦してみるが、凛乃の姿は変わらない。それから、水晶をまた見たり、色々なことを試みたが人間の姿には戻らなくて、諦めて外へ出ることにした。
凛乃の両親は、旅行に出かけていて、今日は帰ってこないということを思い出した。兄のカロンは、まだバイト中だ。椿は買い物へ行っているだろう。
あれから椿は凛乃の家に住んでいる。完全に人間になったのは良かったが、住む所までは考えてなかったようだ。
凛乃が駄目もとで両親に言ってみたところ、すんなりと許可がもらえて現在は五人で過ごしている。
庭の草むらを慣れない手足で歩いていると、野良猫っぽい猫がやってきた。
「!お前、もしかして凛乃か?」
凛乃は自分の名前を知っていることに驚いた。凛乃を知っている三毛猫は、凛乃にすり寄ってくる。猫同士のスキンシップに戸惑いながら、凛乃は三毛猫に問う。
「え、私を知っているの?」
「ああ、もちろん。お前は俺の恩人だ。忘れるはずがない。ほら、この傷跡が証拠だ」
そう言って毛が薄くなっている手を見せた。完治しているようだが、傷跡が少し残っている。凛乃は過去を遡って考え、すぐに思い当たった。
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