7.3


「こうなってしまった以上、皆様の記憶を消すべきだと私は思います」


今までずっと黙っていた椿が口を開いた。私はその言葉を聞いて、目を丸くする。椿の表情は、物寂しかった。飛鳥さんは、椿がそう言うと知っていたように目を伏せる。


「そして私たちは、人間界から立ち去るべきなのです」


そんな……。
私の中で何かが崩れた。いきなり、夢から現実に戻された気分だった。

椿に出会ったときから、これは夢なんだろうなとどこか遠くで思っていた。それが、こんな形で、現実に戻されるなんて。


「じゃあ私の記憶も消すのですか!?せっかく‥‥せっかく椿に出逢えたのに。そんな簡単に消えるなんて、ひどいじゃないですか!私たち人間を救うんじゃなかったんですか!」


初めて椿と喋った。椿は人間の男の子になった。椿と買い物に行った。椿が家出したと思ったら、迷子になっていた。

梨絵が飼っているウェルディは、かわいい女の子のマリアちゃんだった。カロンくんに会った。カロンくんに助けてもらった。椿が車に轢(ひ)かれそうになった。

カロンくんは私が好きだと言った。マリアちゃんが椿に告白した。
椿は‥‥椿は……。





- 50 -

[*前] | [次#]
しおりを挟む

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -