6.6
ベンチから立ち上がり、私の方へ振り返る。私の瞳から流れていた涙を、優しく拭き取ってくれた。柔らかい微笑をして私を見つめて、手を差し出してくれた。
「ありがとう、椿。家に帰ろうか」
「はい」
椿が顔を洗うような仕草をすると、黒猫の姿になった。私はシルフを抱きかかえて、家に向かって歩き出した。一緒に、空に輝く星を眺めながら。
*
目覚まし時計が鳴っていると思って、時計を手に取ったが音が止まらない。よく聴いてみれば、携帯の着信音だった。
「はい‥‥」
「凛乃!ねえ、あたしのウェルディが女の子になったんだけど!」
「!!」
その言葉に、一気に目が覚めた。がばっと上体を起こす。ついに、梨絵に秘密がバレてしまった。けれど、まだ梨絵だけなら騒ぎにはならない。
ぼんやりする脳を精一杯フル回転させて、告げる。
「梨絵、よく聞いて。ウェルディは人間になれる猫なの。本当の名前はマリアちゃんって言うの。このことは、人に言いふらしちゃダメだよ」
「?う、うん。分かった」
時計を見てみると、いつも起床する時間よりずっと早かったが、ちょうどよい時間なので着替えた。今日は学校に遅刻しないで済みそうだ。
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