5.2
その後、パパが帰宅して早速椿を紹介した。猫が人間になることは、やはりパパも驚いていた。驚かなかったのはママだけだ。
そんな訳で、シルフが人間なれることは、森家の秘密ということになった。ママもパパも、猫の時はシルフ、人間の時は椿と呼ぶことにした。
椿はすっかりママとパパに馴染み、人間の姿のままママの家事の手伝いをしたり、パパの肩をもんでいたりしていた。これで、椿は家では自由な姿でいられることになったから良かった。
椿は今夜、ママと一緒に寝るそうだ。もちろん、猫の姿で。これは、ママが自発的に言った。
別に私はそのことについては、何とも思わない。思ってもいない。強がってもない。
けれど、この複雑な気持ちは何なんだろう……。
*
本鈴とも思われるチャイムが学校中に鳴り響く。
私はまだ、学校外の道路を全速力で走っていた。
「うわー完全に遅刻!生徒指導室に行くの、面倒くさいなぁ」
曲がり角を曲がろうとした時、何かとても柔らかいものに当たった。
「あ、すまん」
上から綺麗な女性の声がした。だが、口調は男勝りだ。顔を上げて見ると、私はこの女性の豊満な胸に突っ込んでしまったようだ。
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