注がれた赤いワイン


貴方が思っているほど、大人じゃないのよ、と。
そう告げられた唇は、艶やかで冷ややかだった。

どう見ても、彼女は大人な女性だった。それでも彼女はそうではないと言う。まるで、大人になりたくなさそうに――

熟れた身体に引き寄せられ、誘(いざな)い弄ばれ、堕ちる。本能には逆らえず、欲望のままに求める。

彼女は笑う。
秘めたその微笑みに、隠された真実を知ることはない。そのままを受け取ることしか、出来ない。

離れたくても離れられない。
戻りたくても、もう戻れない。

零れた赤い染み。
熟された香りが鼻を掠める。
喉を潤せば、慣れないアルコールにくらくらした。

様々な葛藤に闘う中で、彼女と対等な大人になろうと急ぐ自分が、何だか可笑しかった。






20110407