Don't say goodbye
コトリと物音が響く。 沈黙が続くこの部屋に、二人の姿。 外は酷く重々しい雲と土砂降りの雨。 聞こえてくるのは、 降り続ける雨音だけ。
静かに交わした口付けがもどかしくて、絡めていた手を握り締めて引き求めた。相手は困ったような悲しい顔をして、もう一度軽く唇を重ねた。
「これが最期だよ」と囁いた声は掠れていた。とめどなく溢れてくる涙を止めることは出来なかった。せめて嗚咽が漏れないようにと、彼の胸に顔を埋めた。
「行かないで」
やっと出せた言葉が、虚しく雨音にかき消される。彼は指で涙を拭き取ると、儚く小さく微笑んだ。
どうしようもなく彷徨った手は、何も掴むこともなく元の場所に戻る。追い風のように流れてくる思い出が駆け巡り、涙が零れる。
玄関の扉が開く。 傘を広げる音がする。
「じゃあね」
靴の音が徐々に遠くなる。 再び静寂な空気を取り戻す。
思い出したように、急いで玄関を飛び出す。もう、そこにいるはずのないと思っていても、無意識に探してしまう。
言葉にならない声が、容赦なく襲い掛かる。 雨はとても冷たく、悲しかった。
20110203
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