誤解を招くその前に


いつものように保健室で体を休めていた。しょっちゅう保健室を利用している訳ではないが、一度体調を崩すとなかなか治らないのが俺の体だ。

清潔感溢れる空間。白い天井に白いシーツ。カーテンは落ち着いたパステルカラーの青。病院とはまた違ったこの空間は、俺は嫌いではない。

ふと、あの時の事を思い出す。何となく気怠い気がして保健室へ来てみれば先客がいて、興味を持って覗いて見れば、里夜が眠っていた。

無防備な好きな人の姿を目撃してしまっては、黙ってその場を立ち去ることが出来るはずがない。その結果、俺は感情のままの行動を取ってしまったのだが。


「三郷くーん、体調の方はどうー?」


シャッとカーテンを開けて、この保健室の管理をしている末永さんが俺の様子を見る。この先生は皆からの評判は良く、特に男子生徒からはかなり評判が良い。

明るめの茶髪に染めた綺麗なストレートでスタイルも良く、美人。先生が目当てで保健室へやってくる男子は後を立たない。

俺はそんなことを頭の片隅に思いながら、体を起こした。ここへ来た当初よりは大分体調が良くなったようだ。


「大分楽になりました」

「あ、それならー、ちょっと私の話し相手になってくれないかしら」

「いいですよ」


末永さんは俺に掛けてあった布団を整えながら傍にあった椅子に座る。こうやって、末永さんと話すことは珍しいことではない。男子がそれを知ったら、反感を買いそうだ。末永さんの話はとても面白く、たまに先生たちの裏話も聞けるので何だか得した気分になる。


「里夜ちゃんとはどこまでいったの?」

「ぶっ」


末永さんは楽しそうにニヤニヤしながら俺を見ている。直球な質問に俺は何も飲んでいない状態にも関わらず、思わず吹いた。


「うふふ、その様子だとキスまでがせいぜいってところね」


ずばり図星を指されて俺は何も言えなくなる。末永さんの人差し指が俺の眉間に触れた。笑顔の末永さんはこの状況をかなり楽しんでいるようだ。


「…何で分かったんですか」

「女の勘ってやつよ!なーんだつまんない!」


人の気配がしてハッと顔を上げれば、出入口に里夜の姿があった。俺を探してここまで来てくれたのかと思うと、とても嬉しくて直ぐさま里夜の元へ駆け寄った。


「里夜!」

「‥‥‥‥‥‥」


無言でしばらく末永さんを見つめた後、俺に見向きもしないで踵を返していった。何故、里夜がそんな行動をしたのか俺は理解出来なかった。いつもなら、はにかみながら俺を見てくれるのに。


「あらあらー。何だか面白くなりそうな展開ねー」


末永さんは先程まで俺が寝ていたベッドを綺麗にしながら、俺を見る。一体どういうことだ?末永さんは何を楽しんでいるんだ?


「ほら、早く里夜ちゃんを追いなさーい」


誤解を招くその
今の気持ちをきちんと伝えましょう





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From:箕郷浬
By:触れたかった人