七色のバラード



文化祭のメインでもあるバンド演奏。たくさんのエントリーをしたグループの中で、一番期待されていたグループが演奏している。これまでにないぐらいの盛り上がりを見せていた。

ヴォーカルの慶馬は容姿だけでなく、歌声も惚れるものがあった。気になって辺りを見渡してみると、集団から外れた所にぽつりと一人だけ、冷静に見ている人がいた。

普通ならスタッフの人かと思うが、慶馬は時々そちらを見つめている。もしかしたら、そういう関係ではないのかと思ってしまう。

全体的に様子を見ながら彩は、周囲の人々と同じように騒いでいた。正門で配布していたうちわを手に持って、飛んだり跳ねたりしている。

一曲が歌い終わると、次の曲が流れる。有名なアーティストの曲。けれども、彩にとってこの曲は特別なものだった。


(この曲……もしかして、智樹くんが選曲してくれたのかな?)


楽しそうにベースを弾いている智樹に目をやれば、彩と目が合った。彼は嬉しそうに微笑んだが、いつもと違う感じがした。

照明の色でよく分からないが、微かに顔色が良くない。彼女は心配しながら、無事に終わりますようにと見守った。




バンド演奏は今年も大いに盛り上がって、無事に終わった。彩はすぐさま舞台裏に行って、智樹の姿を探した。


「智樹くん!」


額に汗をかいている智樹を見つけ、彩は走って駆け寄る。他のメンバーは気を遣って、そそくさとその場を去っていく。


「彩ちゃん。わざわざここまで来てくれるなんて」

「智樹くんの調子が悪そうに見えたから。……熱あるじゃない?」


そう言って彩は智樹の額に手を当てた。彼女の読みは当たり、自分の体温より熱かった。驚いた彼は彼女を見つめる。


「よく分かったね。でも大丈夫。彩ちゃんが来てくれたから」

「ありがとう」


彩は微笑む。風邪を引いてまであの曲を弾いてくれたことに、喜びを感じていた。思い出が詰まったあの曲は、いつ聴いても感動する。同時に、大切な人を愛しく想う。


「けど、無理しちゃダメ。ほら、保健室行こ?」


智樹の手を引いて、保健室に連れていこうとする。本気で心配する彩の顔を見て、仕方なくここは甘えることにした。




(思い出が重なるハーモニー)





For:1、2、3。
From:箕郷浬