破れた写真


やめて。
これ以上、何も聞きたくない。

聞いてはならない、言葉。
私は耳を塞いで、その場から逃げ出した。
それは、私が、聞く言葉じゃない。




「絢子、今日は敦人さんの家に泊まってくるから、留守番よろしくね」

「…うん」


私は朝食のご飯を食べながら返事をした。姉さんは既に朝食を済ませていて、久々に彼の家に泊まれるからか、とてもご機嫌だった。

姉さんと敦人さんが付き合い始めたのは、一年半前。
会社の飲み会で意気投合し、付き合うことになったというよくありがちなパターン。

私は大学生で、姉さんと二人暮らし。家事や料理は助け合いながら二人でやっていて、仲が悪い訳ではない。むしろ、仲は良い方だ。

――だからこそ、私は気まずかった。


「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい。帰りは時間があったら、迎えに行くね」

「ありがとう。お願いね」


玄関の扉が閉まる音と同時に、机の上に置いてあった携帯が鳴る。画面には、彼の名前が表示される。


「‥‥はい」

「絢子?敦人だけど」

「もう電話しないでって、言ったじゃないですか」


冷たく、感情のない言葉で告げる。
なぜ、ためらいもなく電話を取ってしまったのだろう。まだ、私も捨てきれていないのか…。


「ごめん、でも……声が聞きたくて」

「姉を宜しくお願いします」


私は強引に電話を切った。もう、彼とは話したくなかった。これ以上、近付いてはいけない。
例え、手遅れだとしても――




20100626