ノイズ


まさにセンチメンタルな気持ち。
手渡されたルームキーを見つめて、そう感じた。あたしって、そんな軽い女に見えるのかな。

黙ってそのルームキーを机に置いて、席を立つ。ちらちら見てくる男の視線が、嫌になった。

ドイツもコイツも。
そういう目でしか、あたしを見ていないのか。

眠らないネオンの街を歩いていれば、ガラの悪そうな奴らに声をかけられる。ケンカを売っている訳ではなく、下心見え見えの。

やっぱりこんなところに来るんじゃなかったと、今更後悔した。

もう、あの人は、いない。

過去は過去。
時間は巻き戻せない。そんなことは分かっているのに、また来てしまった。


「──そう、また会えると思って……」


一人の男が、携帯で電話をしながら横をすれ違った。
それは、聞き覚えのある、声。

足が止まる。

香りも、容姿も、あの頃と変わらない。

あの人。

視界の全てが、スローモーションのように映って見えた。





(雑音の中で僅かに聞こえる、)





For:1、2、3。
From:箕郷浬