甘い果実を頂戴?


「狼さん。例えるなら、そんな感じ」


へぇーと曖昧な相槌を打つ優香里は、ライラックティア・パーモンブルというかなり洒落た雑誌に夢中だ。きっと私の話なんて聞いてやしない。


「で、何が言いたいの?」


意外にもちゃんと聞いていたものだから、言葉に詰まった。優香里がじっと私を見詰めてくるので、咄嗟に目を逸らした。何だか、面と向かって言えない。


「だから、そのー……狼さんの割には、何か、うん。えっと、まぁそういうこと」

「いや答えになってないよ。もしかして里夜‥‥」


雑誌をぱたんと閉じて、じぃぃと顔を近付けてくる。ち、近いです。そんなに近くで見ても、顔には何にも書いてないと思うんだけどな。


「彼氏に襲われたいの?」

「ななななっ!?」


私の顔はたちまち赤くなる。優香里は楽しそうにニヤリと笑うと、再びライラックティア・パーモンブルを読み始めた。た、他人事だと思って!

そういう訳じゃないときっぱり言い切れない…気がする。私の彼氏でもある健吾は、言っちゃうと恥ずかしいんだけど、よくキスはしてくれる。

時々不意打ちにしてくるキスとかにいっつも振り回されてる。でも嫌いじゃない。そんなところも──好き。それ以上を求めるなんて、私って変態なのかな……?


「あらあら。噂をすれば本人がやって来たよ」

「え!?」


あからさまの反応に相変わらず優香里は楽しんでいる。うー今度の時はこっちがいじめてやるんだから!
振り返れば、健吾が笑顔でこちらを見ていた。

こう言うとバカにされそうだけど、健吾は結構カッコイイ方だと思う。普段は眼鏡姿だけど、眼鏡を外した時なんて見惚れちゃう。


「どうした里夜?顔が赤いぞ?」

「な、何でもないの!気のせいだよ!」

「ならいいけど。じゃあ帰ろうか」

「う、うん」


明らかに動揺しすぎているのは、自分でも分かってる。けど、自分じゃどうしようも出来ない!この顔の熱りだけでも、消えてくれないかな。

帰りは毎日健吾と一緒に帰ってる。それが当たり前になった。ふと健吾が歩くの止めて、私を見た。


「今日の里夜、おかしいな」


そう言って、不意打ちにキスをしてきた。ヤバい、この状況になると私は逃げれなくなる。周りには誰もいない。何故なら、今いる場所は滅多に人が通らない路地裏みたいな所だからだ。


「そんなこと、ない」

「嘘だな。何でも聞いてやるから、俺に言ってみろよ」


吐息がかかるほどの至近距離で見詰められたら、もう逃げられない。すぐに降参の私は口を開いて、小さく答えた。


「キスばかりじゃ、イヤ‥‥」


健吾はそれを聞いて一瞬キョトンとした表情をした。当然だよね、そんなこと言うなんてどうかしてるもん。
すると、突然ぎゅっと強く抱きしめられた。


「聞こえる?俺の心臓の音」

「うん」

「めっちゃドキドキ言ってるだろ?里夜と一緒にいる時、いつもこんな感じ」

「うん…?」

「里夜に嫌われると思って抑えてたけど、そんなこと言ってくれるなら俺、狼になるからな?」

「…いいよ」


綺麗な微笑みをした健吾は眼鏡を外してもう一度、私にキスをした。いつもとは違う激しくて熱い口付けに、私は溺れていった。




い果実を戴?
(夢中になるほどの甘い果実を)





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From:箕郷浬