青き約束を、またこの場所で


カンカンと太陽の陽射しが私の肌を照り焼きにする。こんなに熱いのだから、脳もきっと溶けている。

その時、急に頬にひんやりとした冷たいものが触れた。不意打ちだったので、思わず体が縮こまった。


「冷たー…」

「悪い悪い。そこまで驚くとは思わなかったからさ。ほら、サイダー」

「……ありがと」


私は浩孝(ひろたか)からサイダーを受け取った。キンキンに冷えたサイダーは、とても気持ちよい。蒸し暑い日はこれに限る。

浩孝は自然に私の隣に腰を下ろした。彼はまっすぐ前を見つめている。私たちの前には、海が広がっていた。堤防に座りながら、足をぶらぶらさせる。

私は一度、ちらっと浩孝を見て海に視線を戻した。


「ねぇ、話って何?」


そう言って、サイダーを一口飲んだ。口の中でしゅわっと泡が弾ける。サイダー特有の爽やかな味が広がった。

浩孝は海に目をやったまま、あぁ…と呟くように答える。サイダーを自分の横に置いた時のコトリ、という音がやけに大きく聞こえた。


「俺、引っ越すんだ」


聞いた瞬間は、その言葉の意味がよく理解出来なかった。それは、熱すぎる気温と太陽のせいかもしれない。
私は間を置いてから、言葉を返した。


「そう、なんだ」


声に出してみて初めて気付く。私は寂しいのだと。その声があまりにもか細かった。

浩孝とは昔からの付き合いで、小さい頃はよく一緒に遊んでいた。言うなれば、幼なじみってやつ。この海も、良き思い出の一つ。

浩孝は私の方を見ていたけど、私は俯いていたので浩孝の表情は見れなかった。また、浩孝も私の表情は見れなかった。


「よくありがちな転勤ってヤツで、どうしてもここから引っ越さなきゃいけないんだ」

「──じゃあ」


そう言って顔を上げる。浩孝と目が合う。
遠くへ行ってしまうのなら、


「また会おうよ、ここで」


約束をすればいい。
また会おうと。この思い出の場所で。
私はずっとここで待ってるから。

浩孝は微笑みを見せて答えた。
先程まで気難しい顔をしていたけど、今はいつもの浩孝だ。


「ああ。絶対、会いに来る。じゃ、指切りでもしとく?」

「‥‥そうだね」


約束ごとがあれば、いつも指切りをしていた。今も昔も変わらない。そう思って、私は微笑んだ。





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From:箕郷浬