自分で無くて
「記憶の消去?」
真正面にいる彼は確かにそう言った。
そうだよ、と言い目を伏せる。そうしてまたポツリと言った。
「僕はね、記憶を消さなければならなくなったんだ。正確には望んだ訳だけどね」
科学は飛躍した。勿論人類の夢である宇宙進出も果たしたし現在では気軽に旅行に行く事ができる。特殊な訓練を受けていた時代とは大違いだ。
こう飛躍したのは地球汚染と人口増加が原因だ。
人が住める程度の汚染だがこれから更に進むだろう。世界人口は80億までに増えた。ゆえに食料生産は追い付かなくなり住める土地も少なくなる。
そこで人類は宇宙へ進出することを決めた。更に言えば新エネルギーを見つけることも宇宙進出の目的である。
話を戻すが彼は記憶を消去する、といった。今現在も人体実験は社会的な批判を受けている。クローン技術だって未だに人を造ってはいない。それなのに人の脳を弄るとは。これもまた社会からの批判を受けるだろう。
「これは人類の為に必要なんだ。これから更に科学は発達して行くから。その為にもこれは必要なんだ。」「失敗するかもしれないだろう?そうなったら君はどうする」
「失敗するのを前提に物を進めてばかりでは進歩も何もしないよ。それに僕は科学者だ」
「人道的じゃないだろ」
「これから必要になるさ」その後幾ら彼に言ってもきかなかった。残念だ、といい去って行ってしまった。彼を理解する事が自分には出来なかったようだ。失敗したらどうなる?廃人になってしまうのだろうか?
彼が記憶を消したいそんな事を思っていたなんて。
今までずっと一緒に居たのに気付きもしなかった。
「失敗したらきっと…」
ポツリと呟いた。窓から灰色の空を見てなんとなく、なんとなくだけど彼が記憶を消したい理由が分かったような気がした。



11'0412
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