兄は何日経っても戻っては来なかった。山の中を探して町中を探したが兄はどこにもいなかった。警察にも届けを出し捜索した。しかし、祖父や父はどこか兄を探すのに一生懸命ではなかった。兄が帰ってこない。と自分が騒いだときも少し驚いてあとは黙って二人で目を合わせて神社へと歩いて行った。それが不思議でならなかった。あんなに、出来る兄を、将来を期待していた兄をそんな簡単に探すのを諦めるとは思えなかった。一方、母はどこか諦めたように泣きじゃくるばかりで自分のことなど視界に入ってはいなかった。母は以前からこうだった。全てにおいて優秀な兄しかみていなかった。まるで自分のことなどみえてないかのようだった。結局のところなにも変わってはいないのだ。父と祖父がどこか知ったふうな態度と母は優秀な兄しか見えていないということは。警察に届け出を出したが見つかる気はしなかった。兄はきっとこのまま自分が年をとっても見付からないだろうと漠然と思った。
 数ヶ月が経った。兄はやはり見付からないままだった。そのころに遠い親戚だといって人を紹介された。なんでもこの家に住むらしく「よろしく。」と笑顔で言って手を差し出してきた。意味がわからなかった。兄がいないというのに焦りもしない祖父と父に不安定な母。それに加え名前も知らない遠い親戚とひとつ屋根の下で暮らさなければならないことが気持ち悪い。まるで赤の他人のような、兄がいなくなってからそんな雰囲気をまとって我が家は暮らしてきた異常な家族だということは父だってわかっているはずだろうに。なぜ、このタイミングで遠い親戚と暮らさなければならないのか。赤の他人に自分の家庭が崩れかけていることを知られてしまうのが嫌だった。
兄が、兄が、兄が。
たったひとりいないだけでこうも変わってしまった家族。弟である自分の存在というものが認めてられていないかのような錯覚。それらすべてをみられるのが恥ずかしい。ひた隠しにしてきた感情が赤の他人によって決壊寸前にまで追い詰められそうになった。きっと、握手なんてものをしてしまえば完全に決壊をしてしまいもう家族なんて脆いものは弟という認められていない存在ののせいで完璧に崩れ去ってしまうだろう。
差し出してきた手を握り返すこともなく自分は彼を一瞥してその場を去った。


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bkm
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