兄は出来た人だった。だった、と言うには語弊があるだろうが今現在の兄の様子は分からない。最後にあったのは自分が10か11ぐらいだった気がする。詳しくは覚えていない。兄は2つ年が上なのでその時の兄は12か13だ。実家が神社である自分はよく兄と共に境内や裏の山で遊んでいた。兄は御神木である杉に良く行っていた。ひとりで遊ぶのはつまらないから自分も兄について行ったのを覚えている。兄は御神木に寄り添い太い幹に腕を回し瞼を閉じ独り言のように話始める。その時兄は神主の服を着ていたからなんだかとても神聖に美しく見えた。
「知ってる?この御神木は人を喰らうんだ。」
「そんな非科学的なことあるわけないだろ。」
今でもそうだが昔も同じように自分はさめた人間だったのでそういう返事しか出来なかった。
「違うよ。本当なんだ。人を喰らってこの御神木はここまで大きくなりながら成長し生きてきた。人を喰らっているんだ。」
兄は瞼を閉じ太い幹に腕を回したままそう言った。
嘘だ、自分は否定した。信じられる訳が無かった。成績優秀な兄がスポーツ万能な兄が全てにおいて自分より優れて将来はこの神社の神主になる兄がそんな妄言を吐くことが許せなかった。自分の目指すところである兄にそんなことを言って欲しくはなかった。
「そっか」
太い幹に回された腕はほどかれ兄は悲しそうに微笑んだ。
自分は逃げるようにその場を離れた。いつもは追ってくる兄が今日は追って来なかった。どうせ出来の悪い、言った事を信じてくれない弟に失望し面倒だと思ったのだろう。さっさと家に帰って夕飯も食べずに風呂に入って寝た。
 その日から兄には会っていない。




title by ミシェル


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