不透明なチョコレート


 街には真っ白な雪が降った。実際には真っ白なんかじゃない。雪は空気中の塵を核にして空から落ちてくるのだ。だから綺麗、なんて言えない。
 昼間だと言うのに薄暗かった。雪もこうして降るとなんだか素敵なものに思えない。今日は特にすることもなくただぐだぐだと自宅で過ごしているだけだ。
外は寒いし用事もない。わざわざ行く理由はなかった。
 今日はバレンタインデイと言うお菓子業界の陰謀渦めく日本独自のよくわからない日だった。もちろん、そんなものはひとつたりとも貰ったりなどしていない。はっきり言えば嫌いだから。甘いものは好きではない。ケーキをみると吐き気がする。どうしてこうなってしまったのか分からないがとにかくこうなのだ。いくらビターと言われても食べる気など全くおきない。幸いにも今日は休日。仕事場で貰うことはない。恋人だっていないしチョコレートを貰うことは絶対にない。寂しい奴だ、と言う人間がいるかも知れないが自分から見たらお菓子業界の思惑に乗っている奴らのほうが寂しい奴である。
 ピンポン、と電子音が鳴る。居留守を決め込もうとするがしつこくピンポン、ピンポン、ピンポンとインターホンが鳴る。
 一体誰なんだこんな時に。留守って言葉を知らないのか。
怒りながらも体を玄関まで運びロックを解除してでる。しつこくインターホンを鳴らしていた人物を見ると女だった。見た目は街にいたら溶け込んでいなくなってしまいそうな普通な女性。いや、まさか。職場の後輩?え、なになに?自宅まで来たの?
混乱している頭に彼女の声が響いた。
「あの、荷物預かっていたんですけど…」
「……荷物?…あぁ、ありがと。…え、君は?」
「あ、さっき管理人さんに届けてくれって言われまして…、隣の隣に住んでまして…」
 ただ、荷物を届けてくれただけだったのか。にしても、こんな人がいるなんて知らなかった。荷物を受け取って彼女にまたありがと、と言って扉を閉めた。
受け取った荷物、小さめの小包は母からだった。
中を開けると板チョコやらトリュフやらドーナツやらが入っていて奥の方にはメッセージカードが入っていた。


甘いチョコはいかが?


と、これだけ書かれたメッセージカード。
全く、迷惑なことをしてくれたもんだ。甘いものは苦手だと言うのにこう送りつけてくるとは。
甘いものは食べないからおいて置いても食べられなくなるだけだ。
 さてと、小さく声にだし適当な袋にチョコを詰める。コートを着て鍵と携帯だけ持って外に出た。
二軒先の彼女はいるだろうか?




11/05/21
無茶苦茶過ぎた
季節感ゼロ
ブログ掲載


prev next

bkm
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -