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重たい息を吐き出して、少しだけ肩を落とす。
覆い被さってくるぬくもりに体を預けて、もう一度息を吐いた。

「おつかれ?」
「…んー。」
「ありゃまあ、これは相当な。」

右肩に乗っかった重さに甘えたくて、それこつりと頭を寄せる。
いわゆるあすなろ抱きを夜久にしている苗字は、夜久に安息を与えるソファのようなものである。

「どうしたんだよ、珍しい。」
「…俺だって人間だぞ…。」
「知ってる。でもあんま弱ってるとこ見せてくんないじゃん?だからすごい嬉しい。」

ぎゅうぎゅうと抱きしめる腕の力を強められ、夜久の身体はだんだんと力が抜けていく。
苦しくないし痛くもない。むしろ重たくてどうしようもなかった胸の辺りが、どんどんすかれて軽くなる。
そうなってくると、口にも出したくなかった悩みのひとつひとつがぽろぽろと出てきはじめた。

夏休み明けのテストが酷かったとか、学園祭の準備が切羽詰まってるとか、もうすぐ引退だとか。
自分で勝手に喋ったくせにまた息苦しさがぶり返してきて、情けなくなる。

それでもぬくもりは離れていかないし、腹に回った腕は強く締められたままで、やっぱりなんだか救われたような気持ちになる。

苗字はうんうんとそれを聞いて、夜久にぬくもりと安息を与えるだけだ。


「あーもー…課題も、出してない…。」
「何出してないの?」
「…えいご。」
「なんだ昨日までのやつか。」
「ん、全然終わってねえの…。」

もうやだ、と夜久は苗字の横顔に鼻先を寄せた。
苗字は少しだけ口角を上げて、ふわりと柔らかそうな髪の毛を梳いてやる。

「あのセンセ、優しいから月曜の朝一で出せば許してくれんじゃない?」
「…そうかあ?」
「衛輔、いつもはちゃんと出してるだろ。」

いけるって。ぐずる子どもに言い聞かせるように、苗字は穏やかな声音でそう囁く。
ぱちりと目があうと、再度いけるよ、と微笑む。

「…んー。お前が言うとなんか頑張れる。」
「課題するなら手伝うよ?」
「まじで?」
「うん。あ、でもちょっと待って。」

救われた、と嬉々とした視線を夜久が向けると、苗字はまた柔らかく笑った。

「もうちょっと、このままでもいい?」

もちろんだとも、とは答えずに。
かわりに夜久は両腕を伸ばして、その唇に直接返事をすることにした。



20150920
20150922


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