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こちらの続き。

「あれっ、」

おかしいなあ、とでも続きそうなほどには、その声は疑問を滲ませていたし、そして虚を衝かれたかのように唐突だった。

廊下でその灰色頭のデカイやつとすれ違う瞬間、強く肩を引かれ、好奇心に光る緑の瞳が上から俺を覗き込んでくる。

「シャンプー変えた?」
「お前は犬かよ。」

どんな鼻してんだよ。

先日自腹を切って買ったメンズシャンプーの香りに慣れず、落ち着かなかったのだが、なんだか急にそうでもなくなってきた。



「にしてもさ、よく分かったなあ?」

ポテチの袋を漁りつつ、そう問い掛けると灰羽は少し照れたように笑って頬っぺたを掻いた。

「いや、名前はいつも甘い匂いだったからさ。」
「…すれ違っただけでわかるもんか?」
「まあ、名前だからな!」
「意味わからん。」

灰羽よりも黒々として太い俺の髪の毛はいつもよりかは調子が良く思える。
寝癖があんまりつかなかったし、指を通した時、するっと掻き分けられるのだ。
中々に爽快である。香りは落ち着かないが。

「でも急になんで?」
「え?…あー、甘いって言われたから。」

すると灰羽は不思議そうに小首を傾げて、

「いっつもじゃん。」
「いや、さすがに女子に言われると…。」
「…そうかあ?」
「俺の気分的問題デス。」

俺の調子の良い髪を一房救い、鼻を寄せてきた。

「…うーん。」
「なんだよ。」
「俺は前のがすきだった。」
「、ソーデスカ。」

ふすふすと鼻息が頭部をくすぐって、むず痒くって仕方がない。

「おい、くすぐって、やめろっ。」
「、んー…。」
「使い終わんなきゃ、戻せねーよ。」
「うーん。」

それでも、腑に落ちないと眉を潜めて腕を組んでいた灰羽は、数秒後にあっと声を上げる。

「俺がそのシャンプーつかう!」
「は?」
「くれよ、そのシャンプー。」

満面の笑みでそう強請られて、俺は断れるわけもなく。買って二日、一度しか使っていないそれは灰羽の手へと渡った。

次の日、珍しく朝練が無かったという灰羽の頭からは昨日の自分と同じ香りがして、
やっぱりなんだか落ち着かなかった。



20150622
20150922


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