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こちらの続き。

諦めてはいた。

けれど人間といういきものはどんな時にも僅かな希望を見出し、それを高望みしたがるのだと、俺はこの日それを身をもって知った。
つまり悟ったのである。一つ賢くなれた。

深夜を少し過ぎた自室。スマホを握った手を放り、浅く長い息を吐く。

やっぱり賢くなんてならなくてよかった。
そんな賢さより甘酸っぱい青春を俺にちょうだいよ神様。

「…つら。」

一世一代というには大袈裟だが、わりと真面目な恋をして告白をして、ふられた。
最近過ごしやすくなったなあと思っていたのに、今日はちょっと息苦しく感じた。



どうにも体調がよくなくて、学校に行きたくなかった。
きっと彼女に会うのを、俺の内面的などこかが厭っているのかもしれない。

きりきりと痛んで、食欲の湧かない胃はどうしたものやら。
登校中、いつも行くコンビニを素通りした。
するといつもより20分以上早く学校に着いた。
…俺、コンビニでいつもどれくらいかけて菓子選んでんだろ。

「苗字?」

ふと後ろから掛けられた声に振り向くと、赤葦がいた。今日も癖毛が素敵ですねなんて言った日には彼自慢の肘が火を噴いてしまう。

「おー、おはよ。」
「おはよ。早いな。」
「そうなんだよ。てかお前朝練は?」
「休み。」
「…でも早いのな。」

今日数学当たるとか予習出来てないとか、わりと学生っぽい会話をしつつ、二人並んで教室を目指し歩く。

今日未明に起きた、俺の失恋大事件はどうにも口から出てこなかった。

言ってしまおうと、「ふられたんだ」というその六つの音を出してしまおうとするたびするたび、
言いようのない寂しさやら、チンケでなけなしのプライドやらが邪魔をして、全くもって別の話題を彼に投げかけるのである。

なんとも恥ずかしい話。早く笑い話にでもできたらいい。できたらそうしたい。

一日中喉と胸との間を行ったり来たりして、とうとうそれは腹の奥底に鎮座した。

当の彼女は何もなかったかのように今日も無邪気に振る舞っているし、俺もそれに乗って、何もないように振る舞う。
ただ一つ変わっていた事は、彼女の顔がいつものようには見えなかったことだ。

おしまい。
それで踏ん切りがついたは良いが、今度はふられたショックより、不満の気持ちが募って勝る。

誰か、聞いてほしい。
けど言ってもどうにもならないし、言えない。

ずぶずぶと負の感情の沼に嵌り、それに対し何の抵抗を見せない俺を見兼ねたか、それとも察したのかはわからないが。

かの俺の友人、赤葦は、俺が席を立とうとする直前にがしがしと俺の頭を上から撫で回してきて、

「明日部活ないから。」

とだけ言って、極め付けに二度頭を柔く撫でるように叩いてきた。
そしてそのまま、何事もなかったかのようにするりと教室を出て行ってしまうではないか。

俺の心臓ポンプは高速ピストン運動を開始した。

勢いよく立ち上がり、赤葦を追おうとする俺を、かの女子が掃除してよーと呼び止めてきた。
うんちょっと待って後で、とだけ言って教室を出ようと身を乗り出すと、数メートル先で赤葦がこっちを見ている。

さあいざ走り出さんとしたところで、赤葦の口が「あ」の形に開かれた。

「あ?」

続いて唇がすぼめられる。意味がわからない。
しかし何かを言っているようなので、そのまま待機して赤葦の口を凝視した。
そして最後、横に広がった口の中で舌が動いているのを見た。

「あ!」

それに気付いた俺を見て、奴は満足げに笑うと踵を返して人混みに紛れていった。

最初は「あ」
つぎは「と」
最後は「で」

「…りょーかいでーす…。」

腹の奥底がむず痒くって、焦れったくて。
しかし幸せな気分になっている。

傷心中に付け込まれる女子の気分が分かった気がした。そりゃ落ちるわこれ。



20150611
20150922


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