こちらの続き。
きもい、とかうざい、とか、短い言葉を吐き捨てるはずの口は今、ずっと噤まれてる。
俺のことを嫌悪を滲ませて見るはずの眼はずっと、スマホに向いたまま一切動こうとしない。
なんで。なんでなの。
「苗字ー、」
「今忙しい。」
「ケータイ見てるだけじゃーん。せっかく及川さんが遊びに来たんだからサ、かまって。」
そこで眼が上がって、お前が押しかけて来たんだろって冷めた眼で俺を見てくれる。見てほしい。
それでも、
「…は、」
苗字は見てくれない。
画面の何が面白いのか知らないけど、さっきからずっと俺を無視してそっちばかりだ。
なんか気に入らない。
たとえ俺が休日の朝十時から苗字の家に押しかけていたとしても、だ。
「…なにが面白いわけ。」
返事は返ってこない。
ひたすら画面を叩く苗字に苛々は募って、
募って募って、
だんだん寂しくなってくる。
もういいや、って拗ねてみて、苗字が毎日頭を乗せているであろう枕に顔をうずめる。
ちょっとコーフンした。けどこれは苗字じゃないから、ただ虚しくなるだけだった。
掛け布団に足を絡ませた。
なんの温度もなくて、ひんやり冷たかったけど、数時間前までこれが苗字を包んでたんだって思うとなんだか幸せな気分になる。
でも、これは苗字じゃないから。
「…苗字さぁん。」
なんでもいいから、苗字の反応が貰えるならなんでもするし、なんかされてもいい。
はやくかまってほしい。
せっかくのオフを苗字に捧げる俺って、すっごい健気でしょ?一途じゃない?
苗字ってば、俺にちょう愛されてるう!
だからほら、構えよ。
しかし苗字の全てはケータイに奪われたままだ。憎い、俺も苗字にホールドされたい。
また無視かなあ、なんて半ば諦めていると、ふと枕に埋めた顔が上から僅かに押さえつけられた。
後頭部がかき混ぜるように撫でられる。
「もうちょっとなー。」
これは嘘だ。絶対ちょっとなんかじゃない。
しかし健気な及川さんはそれだけでうれしくなっちゃって幸せなので。
「、んー。」
気長に待てをするんだよね。エライ!
20150531
20150922