「13日?おういい、くねえわ。」
わりい、すっと眉を下げた苗字に、俺は少なからず動揺していた。
いつも誘えばのってくれる苗字なのに、何故かその日に限ってだめだなんて。
「え、っそ、そっか…。」
「公式戦でさ、後輩の晴れ舞台なんだよ。」
勝てば県大なんだ、応援しねぇと。
気恥ずかしそうに笑って、スマホを胸ポケットに滑り込ませた苗字は、その13日という日、
今日という日が何なのか、全く覚えていなかったらしい。
朝からずっと、祝いのメッセージを俺に伝えるべく騒がしく鳴るスマホの音は、少し前に俺の手によって消された。
おめでとうだとか、ハッピーバースデイだとか、プレゼントは休み明けに、とか。
そんなメッセージ達がいろんな奴から送られてきて、嬉しくて楽しくて、けれどどこか満たされていなくて。
どうしようもなく不安で、辛くて苦しい。
苗字からのメッセージはまだ来てない。
「孝支ー、苗字くんきてるわよー。」
時刻は7時少し前。因みに夜である。
最近日が長くなってきているのか、辺りは薄暗いが、曇りの日のような明るさがあった。
そんな時に俺を尋ねてくる苗字は、いったい何を考えてるんだろう。
玄関へ出ると、苗字が笑顔で待っていた。
顔を出し始めた不満が一瞬で頭の中から消えてしまうほど、優しくて甘やかなそれだった。
「菅原。」
誕生日おめでと。
その一言だった。
自分が求めていたものと、相違なかった。
その一言でよかった。その一言がよかった。
滲みるような、歯痒さのような感覚が心臓をきゅっと締め付けてくる。
「あ…えと、ありがと。」
「はいこれ、貢ぎ物。」
「貢ぎ物って…。」
もっといい言い方ないの。そう苦笑してみせながら、深い青の包みの箱を受け取る。
「あーるじゅうはち解禁オメデトウ。」
「はいはい、もうそれ言われ過ぎて。」
「今度一緒にAV借りに行かね?」
「はいはい。」
笑いながらそう言ってくる苗字に、さっき見た笑顔はただの間違いかと思った。
「こーしくんや。」
ふざけた物言いだった。
けど引かれた腕に込められた力は案外強くて、びっくりしていたら俺のまさに目の前には、苗字の肩が現れる。え。なん、なに。
「忘れてたわけじゃねーよ。」
「は、」
「嘘も吐いてない。」
耳元に囁かれる声音はいつもより静かで、強くて低い。びりびりと耳から身体に電流が流れたみたいに震えて、目の前が白くちかちかする。
「ほんとに、おめでとうな。」
なんでそんなに優しくいうんだよ。
なんでそんな、抱きしめてくるんだよ。
首をもたげた欲と横暴さが、乾いた唇と震える喉を震わせる。
「埋め合わせは、いつしてくれる?」
そう尋ねると、苗字は嬉しそうに笑って、何時でもどうぞ、なんて言って俺のわがままを受け止めるのだ。
Happy Birthday Koshi Sugawara!!
20150613