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こちらの続き。

援交少年あかあしくんと一方的な面識を持って早二ヶ月となる。
…少年というのは少し語弊があるが、一応未成年だそうなのでこう言っておく。

なぜ未成年だと分かったのかといえば、そのあかあしくんの情報が、彼が来る度ぽつぽつ落とされていくからなのである。
だって全然人こないし、店内めっちゃ静かだし、話し声なんてそりゃいくらでも聞こえてくるっての。

そんな、ぴっちぴちの援交少年あかあしくんが、ぼろぼろになってご来店なさった場合。
俺どうすればいいの。マニュアルにそんなのの対処法乗ってないんだけど。

眼の上、頬といった顔の至る所に青痣が出来ていて、唇の端は切れているのか、血が擦り取られたような跡が残っている。

いらっしゃいまーせぇ、と僅かに語尾が上がってしまったが、あかあしくんと一度眼が合っただけでこれといったアクションはなかった。

彼はすぐにこちらへ向かってきた。
レジに置かれたのは絆創膏を一箱。
当然かもしれないが、いつものカフェイン飲料はなかった。

「袋いいです。」
「ありがとうございます。レシートは、」
「いいです。」

いつもとは違い、言葉が終わる前にそう言われて少し驚いた。
よほど急いでいるのか、すでに絆創膏を手に持っている。

そして気づいたことが一つ。
遠目、といっても1メートルくらいの距離でしか見ていなかったのだが、目の前で見ると傷や痣がなかなかえげつない。
鼻血の跡がある。どんな喧嘩したんだ君。

いつまで経ってもつり銭を渡さない俺に焦れたのか、あの、と彼が声をかけてきた。
そんで俺は、

「いま急いでる?」

なんて敬語も忘れて、どこぞの怪しいナンパ野郎みたいな声をかけてしまった。
当然、あかあしくんの顔も訝しげになる。

「あ、いや、怪我、カットバンだけだと膿むぞ?」
「え、と…?」
「奥に消毒液あるから、治療…。」

ここで俺は迷った。どう彼にいうべきか。
してあげようか、は恩着せがましい。
させて、もなんだか変だ。

「治療、しようか。」

今のしようかはレッツである。
先ほどの前者ではない。

ぽかん、と惚けた表情をする彼に待つように言って、控え室の救急箱とティッシュを探す。
一応座った方が治療しやすいよな、と思ってパイプ椅子も一つ抱えた。
戻ってくると、あかあしくんはちゃんと待っていた。

「、ありがとうございます。」
「いやいいよ。つか嫌だったら言ってな、俺のただのお節介だし。」

よかったらこっち座って。とパイプ椅子を広げると、あかあしくんはおずおずとそこへ腰掛ける。あ、こいつ頼まれると断れないタイプか。

いくぞー、と謎の声をかけて、まず眼の上、額に近いところへ消毒液の染み込んだティッシュを押し当てた。

「っう。」
「我慢なー。」

乾いた血の跡も拭き取りながら、口の端にも押し当てる。ふるりとあかあしくんの肩が震えて、眉間に皺が寄った。

硬く眼を閉じ、眉根を寄せて耐える姿はなんだか可愛いものにも見える。

カットバンを出そうとすると、それは申し訳ないと言うのであかあしくんが買ったものを使った。

「ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございました。」

きちんと頭を下げてお礼を言う姿はとても大人びていて好青年なのに、どうして援交なんてしてるんだろう。
いや、してないのかもしれないけど、俺にはそれが不思議で不思議で仕方なかった。

「いーよ。こっちもごめんね。」
「いえ、そんな。…では、」
「うん、ありがとうございました。」

ひらりと手を振ってみせると、あかあしくんはわずかに瞠目して、少しだけ眼をそらして頭だけで軽くお辞儀をしてくれた。
その時、彼が初めて年相応に見えた。

その夜、珍しく一人もお客が来なかった。



20150611


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