突然のデートの誘いのラインに、寝ぼけた頭は一瞬でばっちり冴えた。
信じられん。菅原、おまえ。まじかよ。
戸惑い半分、嬉しさ半分で、俺はクローゼットを全開にした。
午前10時を少し過ぎたばかりの朝。惰眠を貪るはずの休日の予定はデートへと変わる。
階段を駆け下りて洗面所へ飛び込んだ俺を見て、先客だった姉は少しだけ眼を見開くと、笑いながらそこを譲ってくれた。
「男前にしていきなよ。」
これだから、やけに勘の良い姉は困る。
顔に水を叩きつけ、軽く口をゆすいでタオルで雑に拭う。
寝癖の酷い髪の毛を落ち着かせてから、少しワックスをつけて整える。
「うし、」
思わずそう声が出て、恥ずかしくなって、かっこつけた鏡の俺とお互い顔を合わせないように、洗面所をあとにする。
最低限の荷物を持って玄関まで出ると、茶化すような姉の声がした。
「そこの男前!帰りに醤油買ってきて、」
「わぁったよ!」
すきっとした下ろし立ての気持ちが、急にこっぱずかしい物のような気がして、そう叫んで逃げるように家を出た。
ポロン、と鳴ったラインに菅原の名前が流れる。
今どこー?
…さっきのお誘いラインから三十分も経ってないのに、こいつは何を言っているのやら。
まだ駅ついてない
えー遅いー
うるせ、お前どこ?
駅ついてない
人のこと言えねぇじゃん!
ごめんって!
良い子は歩きスマホなんてしないように。
見えてきた最寄りの駅へ駆け足で向かう。
改札でスイカを翳して、丁度止まっていた電車に駆け込み乗車する。
すぐにアナウンスで、駆け込み乗車はおやめくださいと流れた。今日はやけにあついな。
再びポロン、とラインが鳴った。
それは車掌さんが吹く笛の音とほぼ同時だった。
タップしてトーク画面を開く。
そして俺は驚愕した。車内はガタガタと不規則に揺れ動いている。
ついた!苗字ん家から最寄りの駅ー
…え?は。ちょ、は?菅原?
どやぁ、というスタンプが続いて送られてきた。あー、どんな仕打ちだよ、もう…。
やり切れない気持ちになって、入り口付近の柱に寄りかかり、スタンプ連打。
菅原からすぐに返事が返ってくる。
なんだよ!?
なんだよじゃねーんだよ、あほ。
あほ
なんで!
そこであと二十分待っとけ
うるさく鳴るラインの通知を切って、座席にどさりと腰を落とす。
怒る、のはお門違いか。
サプライズしようとしてたんだろうし。
俺もいつものノリで迎えに行こうとしてたし。
駅に戻ったら、ちょっと不機嫌な菅原のご機嫌取って、それから種明かしして、罪悪感を感じるであろう奴を買い物に付き合わせてやろう。
20150511