「名前先輩。」
休憩時間なんて関係ないとばかりに後輩を扱いていくOBの眼を掻い潜り、俺はその様子を観察する一人の先輩のところへと駆け寄った。
全然変わってないように見える。
にっ、と口の端を上げて爽やかな笑顔を見せてくれる名前先輩。ホント、かっこいいんだから。
どうした?なんていい人ぶって、ホントはそんなことないんでしょうが。
知りたい、けどこわい。それでも、知っていたい。
「今日もかっこいーですね。」
「お前に言われたら嫌味にしか聞こえねぇ。」
「ひどい!」
「嘘だって。」
ありがとーよって言ってボールを床につく姿は、俺が此処にきたばっかりの時の姿と重なった。
「あー、あっついな。」
首元をパタパタとあおぎながら、ちらりと先輩を盗み見る。
「おー、そうだなあ。」
反応ナシ。
「…先輩全然動いてないデショ。」
シャツの裾をたくし上げて額と首の汗を拭う。
「ちゃんと動いてるって。」
…反応ナシ、ね。
なんで、なんでだ。
先輩ってアッチ系なんでしょ?
オトコにたっちゃうんだよね?
その対象、俺になったりはしませんかねえ?
焦りが不安を呼んで、あの時俺が見た名前先輩は人違いだったんじゃないかって、なんだか泣きそうになった。
少し前に見た男とキスしてた名前先輩。
間違えるわけない、けれど、怖かった。
「…ね、名前先輩。」
一か八かの賭けである。
何言ってんだよ、って言われればそれでおしまいなのに、俺は変な期待ばっかり抱いてる。
「んー?」
不安もあって、それでも俺は声を震わせないように笑って言った。
「だいてください。」
先輩は笑ってくれた。でも何も言わない。
「、せんぱ」
「いいぜ。」
眼を細める笑い方は変わらないけど、ちょっと影があるように見えて怖かった。
「モノホンががっつり掘ってやるよ。」
今更怖じ気付いちゃって。
それでも腰を抱かれて先輩の愛車の前まで連れて行かれたら覚悟を決めるしかなかった。
「…優しくして、くださいね。」
「無理。」
「エッ。」
「可愛い後輩クンに散々煽られたし。」
やっぱり、ほんとに怖かった。
20150504