HQ | ナノ

いらっしゃいまーせー、という俺の独特の挨拶は故意なのであって素なのではない。
はじめは真面目に仕事に取り組んでいた俺だが、今ではこのように、ちょっとふざけてないとやってられないっていうか。なんていうか。
だって夜だし。日付を跨ぐ深夜だし。

そんな俺は最近、無視していいのか悪いのかわからないちょっと犯罪ちっくな場面によく出くわしている。このコンビニで、この勤務時間中に。
…正直警察に通報してからやめようかなって、思う程度には重い感じなんだよな。

見た感じ、あー仕事帰りなんだなっていうスーツの中年おっさんと、俺より年下かなってくらいの学生っぽい男の子が連れ立って来る。
ただそれだけならいいんだけど、いいんだけど。

あれですよ、アレ。男女のアレソレのために必要な薄くて伸びるあれですよ。…ごむ。

それをね!買っていくんですよね!おっさんが!
もうね!戸惑いますよね!俺氏!

だがしかし伊達に二年間コンビニバイト極めてないんで、得意のポーカーフェイスは崩れません。
否、崩してやるものか。

けれどそのおっさんの後で男の子が個人的な買い物をするのが妙にツボだったりする。
睡眠打破!ってデカデカと書かれたカフェイン飲料を買っていくんだけどさ。
彼らが去った後、不謹慎にも浅い笑いの波が俺を長時間に渡って襲うのである。夜のテンションって怖いよね。

さてここまで語っておいてなんだが、最初自分は、あれは俺の素晴らしい想像力によるフィルターのせいでそう見えてしまうのかもしれないと思っていたのだ。
仕事帰りの父に無理言ってコンビニまで来た息子と、奥さんと一発したい父…という無理のある現実逃避をしてその日をどうにか乗り越えた。

しかしどうだ、彼らの存在を忘れ期限の迫るレポートに想いを馳せて廃人と化していた深夜の俺氏の前に、彼は再び現れた。

「いらっしゃいま、せー。」

快活な音と共に当店へご来店されたお客様は先週見た怪しげな雰囲気のおっさんと男の子。
俺氏、唖然。しかも男の子と一緒にいるのは前とは違うおっさん。俺氏、呆然。

しかし俺氏、仕事はきちんとこなす。
先週と同じ買い物をする先週とは違うおっさんに既視感を覚えながら会計を済ませる。
するとだ、

「あかあしくん?」

おっさんが振り向いて店内に呼びかけた。
あかあしくん。あかあし?

何言ってんだこのおっさん。と思うより先にきっぱりとした口調が返事を寄越した。

「個人的な買い物があるので、外で待っていてください。」
「そうか。」
「すぐ終わります。」

ああ、あかあしというのは男の子の名前だったか。
変わった苗字だなー思いつつ、出て行ったおっさんにありがとうございましたーって声掛けて、続いて先週と同じカフェイン飲料をレジに置いた男の子の会計を済ませる。

「袋はいいです。」
「ありがとうございます。レシートはいかがなさいますか?」
「…ください。」
「はい。」
「ありがとうございます。」
「はい。」

ありがとうございましたー、ってさっきと同じように声を掛けて、駐車場から車がいなくなって、俺はその時初めてこれってもしかして援交じゃね?と思い悩み始めたのだった。

それからそのあかあしくんは、ここに、この時間によく来る常連客になった。
一緒にいるおっさんはいつも違うけどな。



20150430


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -