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「苗字。」
「ん?」
「ついてる。」

ここ、と頬を指差されたので手の甲で拭こうとするとこら、と怒られてしまった。
あんまり怖くない。
すっと差し出しだされたのはポケットティッシュである。夜久って実は女の子なんじゃないかな。

「気をつけろ。」
「うん。」

ありがとうと返してティッシュを一枚もらう。
もらおうとしたその時。

「あっ!」

しまった!というような声がした。

夜久のその声に驚いてぱっと手を離すも、彼の顔は困ったような、呆れたような表情になっている。え、なんだ、どうした。

「な、なに、」
「袖にソースついたぞ。」
「えっマジで。」

弁当の上で手を伸ばしたのが悪かったのだろう。
すぐに確認すると、トマトソースがブレザーの袖にべとりとついていた。

「うわあ。」
「気をつけろって言ったろ。」
「ごめん。」

全く、とため息をついたお母さんのような彼は、今度はウェットなティッシュをどこからか取り出して、彼は俺の腕をとると袖を拭き始めた。
自分で出来る、といえば、まだ服汚すつもりかと笑われた。ぐぐ、なにも言い返せん。

「…あいつどこにあんな物しまってんの。」
「女子力高すぎじゃね。」
「今時の女子でもウェットティッシュはあんまり持ち歩かないよ。」

ひそひそとした話し声がする。なにを言ってるのかはよく聞こえない。
夜久はただ黙々と俺の袖を拭いている。

「おし、次は気をつけろよ。」
「はぁいママ。」
「しばくぞ。」
「ごめんて。」

俺より身長低くって、童顔で、それでも人一倍責任感とか強くて世話焼きで。
そうやってずっと今まで、俺の隣に彼がいて。
結構それが当たり前っぽくなってて。

「夜久。」
「ん?」

これから先も、彼が俺の隣にいることが自然なのだとどこかで思う自分がいる。
ていうか、夜久がいなくなるってのがちょっと考えられないレベル。

そんな一生一緒!みたいな、安っぽくて重苦しいような感じではないんだけど。
これから先のことを、今ある自分の中の計画では、夜久は俺にとって、いないといけない存在だったのだ。

「ありがと、またよろしく。」

例えば、夜久が俺から離れてしまったとして。

「なんだよ急にー。」

そうなれば、俺は必死こいて夜久に隣にいて欲しいんだと懇願。は、しない。

「いや、いっつも世話かけてんなって思ったから。」

夜久のことを縛る権利は俺にはないし、それは俺的にもちょっと違うんじゃねえかなって思ってるからだ。

「何をいまさら。」

それでも夜久が、仕方ねぇなあって笑ってくれるんなら、俺はそれに甘えて隣に居たいし、いて欲しい、と、思う。



20150422
20150427


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