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画面にぽっと白い、既読の文字が浮き上がると、途端に目の前の家の中からドタドタと足を踏みならす音がする。思わず口角が上がる。

玄関のすりガラス越しに人影がうごめいて、大きく扉が開け放たれた。
片手に携帯を握ったままのジャージ姿のやつに、にっこり笑って片手を上げてみせる。
その表情には困惑が見て取れる。

「よっ。」

よく晴れて暖かい今日は、初デートにはぴったりである。


「お前、いきなり準備しろとかありえねぇぞ。」

そう軽く睨まれて、俺は申し訳ないというように肩をすくめた。

「だって、今日しかないと思ったんだ。」
「意味がわからん。俺が部活だったらどうすんだ。」
「大丈夫、及川に今日は午前練って聞いてたから。」
「確信犯かよ。」

クソ川め、と吐き捨てるように言う岩泉と俺は某ハンバーガーショップにいる。
お互い昼飯がまだだったから、とりあえず腹ごしらえしようという結論に至ったのだ。

因みに先ほど、俺のアポ無し突撃に岩泉が怒鳴ろうとした瞬間大きく切なげに彼の腹の虫が鳴いたことは俺と岩泉だけの秘密である。
真っ赤になった岩泉は新鮮だった。ふふふ。

「てかよく食うね。」
「あ?」

トレーに並ぶ包み紙とポテトの量は俺の倍はありそうだ。そんなに食べてどうするの。

「いるのか?」
「いや、いいよ。」

いっぱい食べる君がすきー、っていうダイエットサプリのCMあったよな。
なんて思いつつ俺もポテトをつまむ。

岩泉はバーガーにかぶりつく姿を見て、うろおぼえの歌詞を頭の中で歌ってみる。

大きなひとくちー。

むぐむぐと口を動かす岩泉の視線はしっかりバーガーへと向いている。

がまーんなんてらしくないよー。
いっぱい食べるきみがすきー。

ふとした歌詞が頭に浮かんだ。
絶対寒いし字余りだけど、なんだか口ずさんでしまった。

岩泉の眼が訝しげにこっちを見てる。

「いっぱい食べる岩泉がすきー。」

岩泉は爆笑。だと思っていた。
だから俺も口角を上げて、なんでもないように見せる。つもりだった。

岩泉の咀嚼が止まり、きゅっと上がったつり目が大きく見開かれて、俺を見る。

ほっぺたがちょっとだけ赤くて、これはもしやと俺は調子に乗った。

「いっぱい食べるきみがすきー。」
「、っに、かいも、いうな!」

顔面にバーガーが飛んできた。もちろん包みから出ていないやつだ。
岩泉が投げてきたのである。
おいおいお前、食べ物で遊ぶなって言ってたじゃんよ。

「二回目はちょっと違ったけどね。」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「はいはい怒んな怒んな。」

半ば食い気味に身を乗り出してくる岩泉の口の中に食べ掛けのナゲットを押し込んでやると、やつはまた眉根を寄せた。
うわあ嫌そうな顔。ちょっと傷付く。

岩泉はジュースに手を伸ばすと、俺の予想とは違った恨み言を垂れた。

「バーベキューのがいい。」
「…ん?」

ずここ、と岩泉が咥えたストローからくぐもった音が鳴った。
ぶわっと、嬉しさが舞い上がる。やべ、うれし。

「あ、そっち?」
「なにがだよ。あ、ジュースくれ。」

訳がわからんという顔をする岩泉をよそに、俺は一人でまた喜びながらなんでもないと笑ってみせる。

「はいよ。」
「さんきゅ。」

これだから、俺はいつまでも健気に待てをし続けてしまうんですね。



20150407
20150427


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