しりとりしよう。
ぐでりとベットに倒れこみ、枕に顔を埋め、惰眠を貪ろうとする赤葦を引きとめるためにそう言った。
赤葦は器用に片目を開けて俺を見ると、再び眼を閉じて、いいよとくぐもった声を出した。
「しりとりのりからな、りんご。」
「無難過ぎ、ごえん。」
「…赤葦。」
いいよと言ったくせに、しりとりをする気は毛頭なかったらしい。
眠たそうな瞳が僅かに弧を描き、ふふ、と赤葦が少し笑った気がした。
くるりと寝返りをうってみせた愛しい癖毛を引っ掴む。ガチ寝する気だなお前。
ゆるさないぞとばかりに俺もベットの脇に片膝をついてみせると、ぎしりとスプリングが軋んだ。
赤葦の低い声が咎めるように発せられる。
「しつこい、はなせ。」
「お前寝る気だろ、やだ。」
ぱしりとはたき落とされた手をもう一度伸ばして、襟足をくすぐる。
「…だって、ねむい。」
シーツに頬擦りするようにいやいやと頭を振った赤葦の声音は、半ば夢心地のように思える。
甘えたようにも聞こえるそれに、思わず動きが一瞬停止。
「なんでそんなかわいい言い方すんのかね。」
へんじはない。ただのしかばねのようだ。
おまえ、俺のベット占領するために来たのかよ。
しかし、すでに穏やかな寝息を立てる男を起こす気には不思議となれず、俺の良心はそっとしておいてやろうと囁いてくる。
仕方ないから、この前買ったジャンプでも見ようかと腰をあげようとすると、おそろしいくらいの俊敏さで赤葦の手が俺の服を掴んだ。
驚いて赤葦を見下ろすと、赤葦は眼を閉じたまま、ねようと呟いている。
ねよう。ネヨウ。…寝よう?
「い、いや、俺はいい。」
ぐいぐいと服が引かれる。なんだどうした赤葦。デレか、それはデレなのか。
「一緒に、ねよう。」
その寝るにはやましい事なんて一切ないって分かってるからこそ、俺はむらっと来なくて済んだし、穏やかな気持ちで赤葦の隣に寝転べた。
寝癖にも似たその癖毛に指を絡ませながら、夢の中に漂う赤葦におやすみとだけ言っておく。
俺も眼を閉じると、すぐに睡魔はやってきた。
こういうのも、悪くない。
息苦しくなって起きると、赤葦に鼻を抓まれていた。
「苗字は馬鹿だ。」
起き抜けにそう断定的な口調で貶された俺はただごめんなさいと謝罪するほかなかった。
20150328
20150427