木兎という男は、いつもうるさい。
日頃からテンションは高いし、それがずっと上がりっぱなしだし。
授業中も、よくトンチンカンな解答をしてクラスメートを沸かせていたりする。
まあ言ってしまうと、彼の周りは、いつも音で満ちている。
俺と二人きりの時以外は。
自分以外誰もいないみたいに静かな部屋で、俺と木兎はお家デートという物をしていた。
そう、自分以外誰もいないみたいに静かな、部屋で。
家へ招いた時からそうだった。
その前までは、ちゃんと普通に会話できていたはずなのに。
強張った木兎の顔色を伺いながら、名前を呼ぶ。
「木兎。」
「、ハイ。」
さっきからずっとこの調子である。
俺はとりあえず飲み物とお菓子を用意して、木兎の機嫌を取ろうとしたのだが、それには全くといっていいほど食いつかない。
正座で身体をがちがちに固めて緊張している姿は、確かに可愛いけど、どこか寂しい思いもある。
「木兎、」
「な、なんだよ?」
すっと近寄れば、驚いたように木兎は身を引く。
それに少しだけ眉を下げて悲しむような表情をしてみた。これは演技ではなく本心からである。
案の定というか、木兎はそれに引っかかった。
「ぁ…ご、めん。」
申し訳無さそうな表情の口元が、歯がゆそうに強く結ばれる。
かわいいなぁ、初心で。
俺の中身は中々汚くって、木兎が眩しいくらいである。手放す気なんて更々ないが。
「いや、俺もごめん。嫌なら嫌って言っていい。」
そうやって身を引く素振りを見せて、どうしようかと困惑してそわそわと落ち着かない木兎の手が伸びてきたところで。
「っうぇ?!」
それを引っつかんで、背後のベットの脇に押さえつける。
頭だけがスプリングの上に乗っかって、俺を見上げている状態だ。
木兎は眼を白黒させながら、何の意味も持たない言葉をいくつか吐いた。
さらけ出された耳に息を吹きかけるように、声をだす。
「…木兎。」
「うぁ…!苗字、なにして、」
恥ずかしさで真っ赤に潤む眼が、俺を捉えた。
「あんまり、二人きりという事を変に意識するんじゃない。」
ただでさえお前は感情を隠すことが下手なのに。
そんな反応を毎回されたら、こっちだって耐えられるかわからないのに。
きょとんとした無垢な眼に、邪な気持ちが溢れそうになるが絶える。
え、と木兎の声がするのも聞こえないふりをして、そのまま唇の先をその眼を閉じさせるために瞼へ当てた。
「次は、…多分もう耐えられないから。」
身体を離してわかったかと尋ねると、何故か木兎は眼を輝かせて何度も頷いたので、やっぱりこいつ分かってねぇかなと思った。
訝しげに首を傾げていると、木兎ははにかむように笑った。この表情は初めてみる。
「苗字はいっつも余裕あってそうだったから、さっき本心言ってくれてうれしかった!」
苗字もおなじなんだな!なんて笑うこいつに、一つずつ俺の地雷を教えていかないといけないって思うとただの拷問にしか思えなくなってきた。
20150319
20150427