夏休み真っ只中のその日は、もったりと蒸し暑くて朝からさらさらと少しだけ雨が降っていた。
せっかく部活が休みなのに雨ってことですげぇ萎えてて、残ってた課題もニガテな教科ばっかでやる気も起きなくて、無駄に時間をつぶしていた。
その間少し、雷が鳴っていた。
昼になって、小腹も空いたからカップ麺でも作ろうかと思っていた時、最近あまり聞くことのなかった音楽を聞いた。電話だった。
それが妙に懐かしく感じて、サビのワンフレーズが終わってから電話に出た。相手は縁下。
「苗字?」
少しだけ上擦って聞こえた俺の名前。
久しぶりに聞いた。休み前はずっと話してたあいつの声だ。
同時に疑問が浮かぶ。この前の遊ぶ約束、練習があるからって断られた時はフツーにラインだったのに。
「…おー。それ以外誰がいんのよ。」
「いや、だってこの時間は部活じゃ。」
「今日休み。そんなこと言ったらお前もじゃん。」
くぐもった声でも、なんだかすぐ近くで話してるみたいで楽しくて顔がにやにやした。
ずっと部活漬けで、あんまり縁下と連絡取ってなかったし。
ふと向こう側静かになって、俺はん?と思ったけど、すぐに何かあったんだなとわかった。
縁下は何か大事なことを話すとき、少し黙って下を見るくせがある。…くせなんだろうか、よくする人見かけるから、人間の習性なのかもしれない。
「あのさー…。」
歯切れの悪い。俺は一言返事を返すだけだった。
「今日、休みじゃない。部活サボってんだ。」
びっくりした。あんな真面目で、一生懸命にバレーして、楽しいって言ってたやつが。なんで。
「どうしたらいいかなあ、おれ。」
ぐっと心臓を握られたみたいに、俺の身体が強張った。今にも泣きそうな声が胸のあたりを引っ掻き回している。
切羽詰まって、もがいて苦しんでやっと出てきた、たすけてって言葉にも聞こえた。
声が詰まった。何か、なにか言わないと。
「いや、予想以上にキツくってさ。レシーブ練習なんか拾うまで交代なしだし、1日練習なんかは足震えるし筋肉痛ヤバいし、監督すげぇ怖いし、」
捲くし立てる声音が情けない。
心臓が嫌に早くなっている。汗が出てきた。握りしめた手のひらが震えてる。
どうにかしてやりたかった。縁下をどうにか元気にとかそんなんじゃなくて、そうしないと俺の方がどうにかなりそうで、縁下のためにならなくても、何かしてやりたかった。したかった。
ただのエゴだった。俺じゃあ、縁下にしてやれることはほとんどないってわかってた。
「でも本読む時間とか、勉強できる時間とか増えてさ。クーラーとか最高だな!久々につけた。」
それでも。
「縁下。」
「、うん?」
「そっち行く。今から。」
ノイズとあいつの声が混ざるより前に電話を切った。直ぐにラインがポンポン鳴り始めた。
なんでだよ!
さーなんででしょうねー。
雨降ってるぞ
傘持ちゃなんとかなる。
今日休みなんだろ
そうだけど。
身体休ませとけよ
最後のそれに、物凄く腹が立った。
「ふーざーけーんーなー…。」
怒ってる顔文字を送って、携帯をそのままポケットに押し込んだ。
身体は休めてもメンタルが疲れきってんじゃねぇか。バカヤローめ。
俺の貴重な夏の休暇は、縁下への強制カウンセリングで消えてしまうらしい。
別に嫌じゃない。悪くない。むしろしないといけない。これは使命的な何かである。
ただ一つ、何かを悪い物とすれば、両サイドから打つように掛かってくる土砂降りの雨くらいである。
あーあー、傘よりカッパのがよかったか。
20150426